案件2 Mad Dog 20
もしかしたら、数日前尾行られていると感じたのはこの男の所為かも知れない。
緑ケ丘連続失踪事件と祠とを結び付けた男だ、侮る訳にはいかない。マッドドッグの事件にも首を突っ込んでいるのかも知れなかった。
愛美は関わるのは得策ではないと感じ、しらをきることにした。
「何を言ってるんですか?」
愛美は演技派であることを証明する為に、小首を傾げて分からないというふりをした。
萩原は気にした様子はない。思い込んだらどこまでも食いついていく記者気質だろうか。迷惑なことだ。
「緑ケ丘といいここといい、君が現れる場所に事件が起こるようだ」
やはりマッドドッグ絡みだろうか。それにしても失礼な男だ。
愛美が現れる場所に事件が起きるのではなく、事件のある場所に愛美ありと言って欲しい。
「さっき出ていった少年にこの前の彼女はって聞いたら、最近転校してきた子だと教えてくれたよ。格好いい子だね。スポーツ万能って感じだし」
東大寺と駅で別れた辺りから、愛美は見張られていたのだ。東大寺も困ったことを言ってくれたものだ。愛美はそれでもまだ相手にしない方を選ぶ。
「何のお話ですか。最近転校してきたのは確かですけど、出身は三崎高校よ」
萩原は一瞬口ごもったが、愛美をぐいっと自分の側へと引き寄せた。愛美は躓きそうになって、萩原の胸に手をついて身体を支えた。
「Mad Dog事件の、貴重なネタを教えてもいい」
耳許で囁かれた言葉は、思った通りのものだった。
廊下を歩いてきたらしい教職員と目があって、愛美は萩原から身体を遠ざけた。ここで助けを求めて、萩原を突っぱねるのも一つの手だが、前のように捜査の指針になるかも知れない思い直した。
愛美は溜め息を吐いて、場所を変えて欲しいと提案する。萩原は素直に頷く。現金なものだ。
下駄箱で靴を履きかえた後、愛美が萩原を従えて玄関を出て行くのを、その教員は立ち止まったまま見ていた。
大方萩原が、生徒の家族か不審者かどちらだろうと怪しまれたのだろう。
「職員の誰かに、参考になることを聞かせてもらえないかと思ってきたんだけど、君という思わぬ収穫があった」
愛美は萩原が裏門に止めてあった軽乗用車の助手席に座って、前だけを見つめていた。よく知りもしない男の車に乗るのはどうかとも思われたが、いざとなれば自分の身ぐらい守れると言い聞かせる。
それに、外で話をするのは寒い。




