案件2 Mad Dog 19
龍太郎は、久しぶりに気兼ねなく話ができる相手を見つけたので嬉しいのか、聞いてもいないことを話し始めた。
「どうして長谷部先生が、Mさんって呼ばれてるか知ってる。あのさ授業中……」
東大寺が手招きしている為、愛美は龍太郎の言葉を遮った。のんびりするのは事件解決してからだ。
「ごめん。ちょっと用事あるから」
龍太郎は少し寂しそうな顔をしたが、駆け去っていた愛美を眩しそうに見ていた。
愛美は、クラス一の熱愛カップルと評判の彼氏の東大寺と一緒に、親密そうに歩いていく。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られてなんとやら」
龍太郎はおどけたように呟いて、職員室の扉をノックした。
「前の事件が終わってからもう一週間以上経つ。そろそろやばいで。気ィつけやな。鬼ババが帰り支度しとるから俺は追うけど、愛美ちゃんは石塚だけでなく長谷部にも注意しといてな」
深刻な顔をして、東大寺は愛美に囁いた。
二人は本格的な捜査に乗り出すと言いながら、何一つ手がかりを掴んでいない。
長谷部も石塚もD組担任の福永香織も生徒達の評判は芳しくなく、仲間の教師達とも親しく付き合っていない為、聞き出せたことは殆どなかった。
「最終的には長谷部の方を追うわ。犬好きに悪い人はいないんでしょ?」
愛美がそう言うと、東大寺は曖昧に頷いて無理はしないようにと言い置いて歩いていった。愛美が後を追って靴箱に辿り着いた時には、東大寺の姿はなかった。
愛美は、さてどうしようかと立ち止まった。テスト期間ということもあって、校舎には生徒の姿はない。
超能力者の東大寺ならいざ知らず、愛美が見張りなんかしていれば余計目立ちそうだ。
長谷部か石塚か。どちらも怪しいと言えば怪しい。
下駄箱の前でぼんやりと佇んでいた愛美の腕を、突然誰かが掴んだのはその時だった。
「やっぱり君だったんだ。俺だよ。俺、萩原武史、週刊Nの」
二十代半ばに見える男が、コートを小脇に抱えて来客用スリッパを履いて突っ立っていた。愛美の腕を握る指に力がこもっている。
絶対に逃がすまいと思っているようだ。約一ケ月以上ぶりの対面になるだろうか。
萩原武史。新聞記者だと自分では名乗ったが、週刊誌の記者だったらしい。
週刊N。愛美も名前だけは知っている。三流の、芸能人のスキャンダル雑誌だ。
「どうして君が鷹宮高校にいるんだ?」
どうしてお前が、ここにいるのだとこっちは聞きたい。




