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案件2 Mad Dog 18

 日光浴用のライトと玉砂利の入った袋を両手に抱えて、愛美まなみは龍太郎の顔を盗み見る。彼は先ほどから頻りに恐縮して、愛美に謝っていた。

「気にしないで。私も生物部員だもん」

 カメを預かる羽目にならなくて本当によかったと思う。

 ローファー代を長谷部に返しにいった時、そのカメを見せてもらったが、お世辞にも可愛いとは思えなかった。

 愛美は爬虫類は苦手だ。

「受験生の先輩が二人やめちゃって俺一人だったから、よかったよ近藤さんが入部してくれて」

 龍太郎は思いの外、俺という一人称を使った。女の子のように華奢な外見をしていて、声もボーイソプラノな分アンバランスな印象がする。

 どうせすぐに転校する身だと思うと、愛美は少し悪い気がした。

 生物室に入って、水槽を置いてある台の下に、ライトや砂利をしまっていると準備室で物音がして長谷部教諭が顔を出した。

 後日カメを取りにくるという言葉に長谷部は頷くと、扉を閉めて部屋に戻っていった。愛美には気付かなかったようだ。無視されているようで悲しい。

「Mさんいつもああなの?」

 愛美が打ち解けた様子で龍太郎に話しかけると、彼も笑みを見せた。

「俺も殆ど会話したことないけど、時々昔のこととかポツポツ話してくれる。俺みたいに、いじめられてたんだって。その時いい先生に出会って、それで教師になったんだっていつか話してくれた」

 二人で生物室を出ると、そのまま並んで歩き始めた。三年の英語クラスは三時間目にリスニングテストがあるらしく、放送が廊下に流れていた。

 明日の試験勉強してると愛美が当たり障りのない話を振ると、龍太郎も社交的に全然手を付けてないと答えた。

 謙遜に過ぎないのは知っている。

 身体が弱く休みがちな彼は、本を読むのが好きらしく国語も得意なようだ。授業中国語教師によく発言を求められていることからも、それは分かっている。

 案外話してみると、竹内龍太郎はお喋りだ。カメが好きで、昔飼っていたことがあるそうだ。生物部で飼育しているカメは、ちなみにウェルズ君というらしい。

「俺はこれから石塚先生の所に行かないと。保健のテスト範囲のプリントが足りなかったから。コピーさせてもらう」

「大丈夫? テスト明日だよ」

 愛美が笑うと、龍太郎は徹夜すると答えた。

 職員室の前を通った時、愛美は廊下に東大寺が立っているのに気付いた。向こうも愛美に気付いたらしい。

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