案件2 Mad Dog 17
期末考査の一日目は、数学、英語Rと家庭科の三教科で、後は二科目ずつ振り分けられている。今日は古典と地学だった。古典の漢詩の問題で、山をかけていたところが的中したので愛美は気分がよい。
一日目の数学は、巴に一夜漬け程度だが家庭教師代わりを務めてもらったおかげで、平均点以上は解けたと思う。愛美の物覚えが悪いので、二度と勉強は教えないと巴には言われてしまった。
頭はいいが――頭がいいからか、可愛くない。
簡単なH・Rが終わると、クラスメイト達はぞろぞろと教室を後にしていく。話していることは今日のテストのでき映えや、明日以降の試験勉強の進展具合とみな似たり寄ったりだ。
東大寺は愛美にウィンクすると、担任の福永香織の後について教室を出ていった。
マッドドッグ事件は、十日前に愛美と巴が遭遇した以来途絶えている。事件は、いつ起こってもおかしくない予断を許さない状況だ。
マッドドッグの最新の事件の被害者二人は、大手新聞社の記者と女子大生だったことは、新聞と綾瀬からの情報で知っている。
新聞記者という職業から、以前緑ケ丘連続失踪事件の時に会った萩原という男を思い起こしたが、被害者は田村という名前だった。
愛美は数人の女子に挨拶をしながら、ふと教室の後ろのロッカーを見た。何かごそごそしている者がいる。
竹内龍太郎が、ロッカーの上に置いた水槽を下ろそうとしているのだ。
(そう言えば……)
愛美は思い当たって龍太郎の側に寄ると、水槽を下ろすのに手を貸した。恥ずかしそうな顔をして、龍太郎は愛美に頭を下げて礼を言う。
東大寺が現れて以来、いじめっ子のグループは気味が悪いほど大人しくしている。愛美も龍太郎も、矢面に立たされることはなくなった。
体育の時のことをそれとなく話題にした時、東大寺は竹内はともかくも、いじめられても仕方がない奴もいるけどと、投げやりな調子で呟いた。
何度も転校しているだけあって、それぞれの学校の内部事情にも詳しいのだろう。いじめられても仕方がない奴もいる。
苦い言葉だと愛美は思った。
龍太郎は水槽の中に、ライトや玉砂利や餌の入ったビニール袋を詰め込んで、持ち上げようとしているがうまくいかないらしい。
愛美は再び、助け舟を出した。
「竹内君。それ、生物室まで運ぶの手伝うわ」
冬休みの間は生物部で飼育しているカメの世話は、自宅に持って帰ってしてもらわなければと長谷部が言っていたのを思い出したのだ。




