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案件2 Mad Dog 14

「先生。よかったら犬を貰ってもらえませんか?」

 顔色を変えずに、長谷部はせべ愛美まなみを見つめている。何を言い出すのだろうと言いたげだ。愛美は東大寺とうだいじを示す。

「彼の飼っているゴールデンレトリバーが子供を産んだので、みんなで手分けして飼い主を探しているんです」

 愛美の言葉に合わせて、東大寺が頭を下げた。長谷部は話を聞くと、困ったような怯えたような顔をする。

「申し訳ないが、僕は小さい頃犬に襲われて以来、駄目なんです。どうも苦手で」

 長谷部は眉を顰めている。

 愛美は丁寧に礼を言って、生物室を後にした。

 東大寺の言葉を借りれば、長谷部は黒になるのだろうか。

 

 教室に戻った東大寺は、喜々として帰り支度をしている。

「残念やけど。飼ってるって言う確証も、飼ってないって確証も付けられそうなもんは見えへんだな。まぁ、長谷部も怪しいけど、鬼ババで決まりやろ。俺は明日から福永香織を張るけど、愛美ちゃんはどうする。念の為、長谷部をマークするか?」

 長谷部の大人しそうな顔が、愛美の脳裏に浮かぶ。愛美は「そうね」と呟いて、首を振った。

「私は石塚を見張るわ。推理小説のセオリーでは怪しいところがない人間が、一番怪しいこともあるもの」

 東大寺は愛美の発言に、異を挟まなかった。それも一つの真理だと頷いている。

「明日から本格的にマッドドッグとの繋がりを調べやなな」

 東大寺の言葉に愛美は呻いた。明後日から期末が始まるというのに。

「そりゃ東大寺さんは、一年前に習ったところだから大丈夫ですよね」

 愛美は唇を尖らせた。東大寺が自分の胸を叩いて、ばっちりと請け合う。

 東大寺は今、高校二年生だ。一年の授業など聞く気などないのか、五、六時間目も睡眠時間に当てていた。東大寺は胸を反らして自慢げに。

「ばっちり全部忘れた」

 思わず愛美は、それでいいのかとツッコミたくなった。

 東大寺は、自分は頭のできが悪いからと付け加えたが、案外ただの謙遜かも知れない。テスト前に自信がないと言っている者ほど、上位に入っているという法則と同じだ。

「普通に進級してたら、ほんまは俺今年受験生の筈やねん。中学浪人してるからな」

 東大寺は屈託なくそう言って笑った。

 東大寺は実は、愛美よりも二才も年上だったのだ。中学浪人したことも、いま初めて知った。

 綾瀬がいつか言った言葉を、ふと愛美は思い出した。

『誰にでも知られたくない過去の一つや二つある』

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