案件2 Mad Dog 12
「てっとりばやく、全員に聞いてみたらええんや」
東大寺はコップの水を飲み干すと、手を打ち鳴らして勢いこんでそう提案した。
(全員に聞くって……?)
愛美の疑念をよそに、東大寺の探索は放課後を待って開始された。一番目のターゲットに選ばれたのは、福永香織と言って愛美達のクラスの担任だった。
担当は書道で、愛美達は直接教わる機会はない。
三十代の後半らしいが、いまだに独身を通している。感情的になりやすいので、恋人には逃げられたのだろうと、生徒達の間では専らの評判だ。
掃除の監督をしている女性教員に東大寺は近付くと、いきなり。
「先生、犬飼わへん?」と聞いた。
突然何を言い出すのかと、愛美の方がハラハラしてしまう。
「あのさ。うちで飼うてる犬がさぁ、子供産んだんで貰い手探してるんやけど」
東大寺は勝手な作り話を、ペラペラとまくしたてる。
福永教諭は、東大寺を凝視している。その小柄な身体が、小刻みに震えていた。教師の顔が青冷めていくのを見て、愛美は東大寺の制服の裾を掴んで止めさせようとした。
「血統書つきの犬で、親の名前はクラディスって言ってデカいだけで邪魔な……」
(何を言っているのか)
愛美は一瞬呆れたが、女教師はついに感情を爆発させた。福永は教卓を力任せに叩くと、癇癪を起こす。
掃除をしていた生徒達が驚いてこちらを見、東大寺もびっくりしたらしく後退さった。
「犬ですって。誰が犬なんか飼うもんですか。犬なんか犬なんか……」
後は言葉にならないらしく、福永は何度も犬なんかと繰り返した。
「あかんかったらええんです」と東大寺は言うと、ヒステリックに叫んでいる福永を置いて、愛美を教室の外に連れ出した。
「なんや、もう決まったようなもんやな」
「え? 心を読んだ? 自白した?」
「ううん。感情が爆発して、マズい。バラバラにして読み取れへん。慌てて遮断したけど」
廊下にまで、声が聞こえている。廊下を歩いていく生徒達も何事かと、1-Dの教室を覗いていくのだ。
流石に愛美も驚いた。犬の話をしただけであんなに反応を示すなんて、一体どういうことだろう?
犬という単語に敏感になっていることは確かだ。ただの犬嫌いとも思えないが、そんな簡単に決めるのはよくないだろう。
「でもそれじゃあ、証拠とは言えないわ。犬が凄く嫌いなだけかも知れない。あの人、癇癪持ちだし」




