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案件2 Mad Dog 10

「一年D組八番東大寺(とうだいじ)はるか、遅刻」

 初めに我に返ったのは、石塚だった。

「こら東大寺。靴のまま体育館に入ってくる奴があるか。すぐに靴を脱いで、男子全員でコートにモップかけろ」

 その瞬間、時間が止まったかのような体育館は活気を取り戻した。

 女子が顔を見合わせて、忍び笑いを洩らしている。東大寺はばつの悪そうな顔をしながら、照れ隠しに頭を掻いていた。

「まあまあ、カミナリ、そう怒らんでもええやん。バスケの天才の俺としては、一刻も早くゲームがやりたかってんから」

 今来たばかりの東大寺が、どうして体育教師の綽名を知っているのだろう。愛美まなみ一人が、混乱していた。

 他の男子達は、何で俺らまでとブーイングを飛ばす。

「うるさい。お前ら全員、この時間中は正座だ」

 誰も東大寺の存在に違和感を抱いていない、自分達のクラスメイトとして扱っている。

 しかし東大寺が現れた途端、クラスの雰囲気がどことなく変わったような気がする。

 

 少年達は文句を言いながらも掃除用具置場からモップを引きずり出してきて、モップ競争を始めた。提案者は東大寺だ。

 はしゃぎ声を上げている少年達を見て、石塚は深い溜め息を吐いたが顔は苦笑していた。

 石塚は手を叩いて女子の注目を集めると、

「ほら、試合開始だぞ」

 宣言した。

  *

 愛美は古典の教師が黒板に書いた漢詩を、白文に直していた。

 ノートをシャーペンがこする音と、窓を打つ雨、ヒーターの唸る音が教室に満ちている。

 

 愛美は、廊下側の前から三番目の席に座っている。

 いつの間に用意されたのか、東大寺の席は窓際の一番後ろだった。

 愛美はソッと東大寺の方を振り返った。ノートも教科書も広げず、机の上に顔を押しつけて東大寺は熟睡モードに入っている。

 顔を正面に向けると、教師と目があったので愛美は慌ててノートに顔を戻した。

 

 暫くして授業が終わるチャイムが鳴ると、昼食時間になった。

 愛美が何人かの女子と連れだって購買にパンを買いにいこうとしていると、寝惚け顔の東大寺が近付いてきた。結局四時間目中、ずっと寝ていたようだ。

「愛美ちゃ……愛美。一緒に学食いこか」

 いつも通りちゃん付けで愛美の名前を呼ぼうとした東大寺は、途中で気が変わったらしく愛美と呼び捨てにした。側にいた女子やクラスメイトが、おかしな顔をする。

 突然名前を呼び捨てにされて、愛美もどう反応していいのか分からない。

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