表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/201

案件2 Mad Dog 8

 コートに袖を通してマフラーを巻きつけるが、長谷部はせべ愛美まなみの方を見ようともしなかった。迷惑だと思われていたのかも知れない。

 愛美は少し寂しくなって、わざと明るい声を出した。

「靴、ありがとうございました。お金は明日の部活の時に返します。コーヒーごちそうさまでした」

 愛美は深々と頭を下げた。

 長谷部は、うんと頷いただけだ。


 愛美が準備室の扉を開くと、暗い廊下から冷たい冷気が滑り込んできた。扉を閉める前に愛美は、もう一度礼を言って頭を下げた。

「暗いので、気を付けて帰ってください」

 閉めた扉の向こうから、長谷部の声が追いかけてきた。

 不器用なだけで、案外いい人なのかも知れない……。

 愛美の胸は熱いコーヒーの所為だけでなく、温かかった。

  *

 今日は朝からずっと雨だった。

 マラソンの代わりに三時間目の体育は、体育館で女子はバレーボール、男子はバスケットになった。

 女子の体育を教える久保教諭が休みの為、教師の石塚が男女ともに監督している。

 石塚弘孝(ひろたか)は、マッドドッグの関係者と愛美が内偵しているうちの一人だ。

 二十四才と本当はまだ若いのだが、ひげが濃く三十路を過ぎているように見えた。短気な性分らしく、体育の授業中以外でもよく怒鳴っている。

 女子に対しては優しいが、下心でもありそうでクラスメイト達は石塚を敬遠していた。

「負けたらてめぇの所為だぞ。バカヤロー」

 愛美は体育館の舞台に腰掛けて、バスケに興じる男子達を見ていた。

 体育館のコートの半面ではバレー、もう半面ではバスケをやっているのだ。

 チーム分けして、勝ち抜き戦の試合形式で授業は進められている。

 愛美のいるチームは一回戦を勝ち抜いて、休憩中だった。

 男子のコートでは、味方に対する罵声が飛び交っている。矢面に立たされているのは、竹内龍太郎だ。愛美がくるまでは、いじめグループの格好の餌食にされていたらしい。

 背ばかり伸びた感じで、いかにもひ弱そうだ。オドオドと人を窺ってばかりいる。運動も苦手で、右往左往してはチームメイトの邪魔になっていた。

 病弱らしく、愛美が転校してきてから五日のうちに三日も休んでいた。

 彼は、生物部の部員でもある。

 

 東大寺とうだいじとは一度だけ連絡が取れたが、その後音信不通だった。捜査も進展のないまま期末試験だけが近付いてくる。 

 バレーの試合が終わり、愛美はチームの女子の後に続いて舞台から滑り下りた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ