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案件1 そして誰かがいなくなる 5

 西川が買い出しに出かけた所為で、愛美まなみがお茶汲みなどという秘書めいた仕事をさせられる結果となった。

 女は、連続失踪事件の起こっている緑ケ丘高校で失踪した生徒の母親だ。女手一つで育て上げた一人娘が、訳の分からぬ事件に巻き込まれたのかで姿を消した。

 警察は頼りにならないことから、仕事先で入手したSGAの噂に望みをかけてやってきたのはいいのだが、綾瀬には迷惑なことに女は綾瀬を人生相談員とでも勘違いしているのか、度々訪ねて来るようになった。

 愛美の目からすれば、女は綾瀬に気があるようだった。まあ、愛美にはどうでもいいことだ。

「いじめ・・・ね」

 給仕を終えて部屋を去ろうとした愛美を、綾瀬は腕を掴んで引き止めた。クラディスはと言えば、女が気に入らないらしく、とっくに姿を消している。

 愛美は仕方なく、綾瀬の側に馬鹿みたいに突っ立っていた。

「ええ、あの子は私に似て繊細で心の優しい子だから、可愛そうに、いじめられても母親にも訴えられなかったんですわ。あんな学校に行ったのが悪いんだわ。あんなランクの低い学校で、程度の低い子達と交際してるからこんなことになったんだわ」

 愛美はどの面下げてと言いたくなったが、下を向いて小さくイーとするだけに留めておいた。綾瀬は溜め息を吐きたいのを我慢して、合いの手を入れる。

「お嬢さんにはどのような友達が?」

「林まりこだかまりえだか言う落ちこぼれと、落合朋子(ともこ)という問題児を友人なんて、芽久めぐは申しておりますが、あれは悪友以外の何物でもありません。きっと、いいように利用されていたんでしょう」

 女は再び、白々しくハンカチで目元を押さえた。

 綾瀬はデスクに広げてあった緑ケ丘高校の二年C組のクラス名簿のコピーの、落合朋子と林万里江(ままりえ)という名前にペンでアンダーラインを引いて愛美に示した。

 愛美は分かったというように、頷いて見せる。

「次の約束がありますので、お引き取り願えますか」

 綾瀬の言葉使いは丁寧だが、有無を言わせぬ響きがある。女は名残惜しそうにしながら、愛美の方をなぜかチラチラと見ていた。

「この前の秘書の方はどうされましたの? 馘にされたの?」

 女は媚を売るような目つきで綾瀬を見ている。しかし、横目では愛美を油断ならない目つきで見ていた。本当に、子供が行方不明中の母親だろうか。

「いいえ。これはプライベートなものでして」

 綾瀬は不謹慎極まりない言葉を平気で吐くと、愛美の腰に手慣れた動作で腕を回した。

 しかも、これとは失礼な。人を物扱いにするなと愛美は言いたい。

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