案件2 Mad Dog 3
紫苑や東大寺とはよく一緒にいるが、愛美はいつも上辺だけの付き合いをしているような気分になる。――なぜかは分からない。
お互いのことを、あまりにも知らない所為かも知れない。
性格の所為か、長門や巴との間には、一線引かれているような感じすらする。
「連絡係、ご苦労様」
巴はつれなく、仕事の一環だからと答える。
子供の癖にこましゃくれていて憎たらしいのだが、愛美は巴のそういう性格を含めて気にいっている。死んだ弟のことを思い出すからだ。
事件に巻き込まれて三ケ月近く前に死んだ愛美の弟は、まだ中学二年生だった。
「せっかく来てくれたんだし、あそこで何か食べていかない?」
綾瀬に指定された、待ち合わせのファストフード店。
メンバーの仕事の調整がつかない為、愛美のパートナーはぎりぎりまで決まらなかった。
一人でやれるとは、緑ケ丘高校での件もあって言い出せなかった。今度の仕事が、愛美の担当する二度目の事件だ。
「Mad Dogの餌にされた人達を見た後で、よくそんなことが言えたものですね」
巴の冷たい視線に、愛美はあっと口を押さえた。
内臓を食い荒らされた二つの遺体。
忘れていた訳ではないのだが、事件に遭遇して恐怖一つ感じない自分に、愛美は戦慄した。
感覚が麻痺している。
巴も巴だ。人間を餌だとサラリと言ってしまうところが凄い。
「僕は別にいいですけどね。誰だって死ねば肉に還るんだし。奢ってくれるなら喜んで付き合います」
巴は、営業用らしいお愛想を言う。
馴れ合いを好まない巴が誘いにのるなんて、気を使っているのかも知れない。子供が人に気を使うなんて、まともだとは思わない。
愛美は巴の手を握り締めた。
「勿論、奢りに決まってるでしょ」
繋いだ巴の手は、温かかった。小さくてぷよぷよして柔らかい、子供の手だ。
愛美は自分が、非日常に馴らされていくのを感じた。
*
Mad Dog――狂犬。それは警察が極秘捜査を銘打った、一連の事件で呼びならわされた言葉だ。
捜査班が設置されてもう十二、三年にはなる。断続的な間隔を置いて繰り返される悲劇が、いつ頃始まったのかは定かではない。
何度も大がかりな野犬狩りが行われたが、マッドドッグは捕まらなかった。遺体は必ず喉を噛み切られており、内臓が食い散らされているのだった。
初め、犯行は年に一度あるかないかだった。




