案件2 Mad Dog 2
「つい今仕方、駆け去った犬なら見ました。ちょうどよかったじゃないですか。今回の依頼の事件現場に居合わせるなんて」
巴も、言葉の響きに含みを持たせて応えた。
つまり、今のは普通の人間にも見えるのだ。
愛美は、人には見えないものが視える。最近では慣れてしまい、気を付ければそういうものが視界に入らないで済むようになっていた。
それが巴にも見えたということは・・・。
「Mad Dog」
愛美はそう呟いて、死体の側に近付いていった。
一瞬、あまりの惨さに顔を背けたが、逃げる訳にもいかずそれを直視した。引きずり出された死体の腸が、食い散らかされている。
二つの死体は、どうやら男女のカップルだった。首がちぎれる寸前まで噛み切られている。
Mad Dogの手口だ。
「犯行の周期が短くなっています。早く狩らないと死者は増えるばかりです。殺人犬の飼い主は十中八九、鷹宮高校の職員の中にいます。警察の極秘捜査の貴重な目撃者証言によれば」
巴は最初いた場所から動かずに、死体を子細に検分している愛美の背中に声を掛ける。
あまり現場を荒らすと警察に要らぬ疑いをかけられると愛美は判断して、立ち上がると血溜りを踏まないように気を付けて巴の元に戻った。
「巴君。今回の依頼にやけに詳しいのね」
「情報収集が僕の仕事ですから」
素っ気無く言ってその場を後にする巴について、愛美も歩き始めた。
「東大寺さんは、夜にでも電話をすると言っていました。事件解決が済み次第、鷹宮高校で合流するそうです」
――そう。
愛美は頷いて、後ろを振り返った。
死体が二つ、道路に転がっている。誰かが気付いて、警察に通報するだろう。
「大変よね東大寺さんも。長門さんと九州まで出張でしょ」
他の者がSGAでどんな仕事をしているか、知っているようで全然知らない気がする。
聞けば紫苑や東大寺ならなんでも話してくれるのだろうが、遠慮のようなものがあっていつも当たり障りのない話で済ませてしまう。
緑が丘高校に派遣された時、愛美は援護役とは言えパートナーである東大寺をさしおいて、単独行動をしていた。それを不思議だとも、悪いとも東大寺は思っていないらしい。
一緒に仕事をする仲間と言っても、皆それぞれ自分なりの視野とアプローチで事件解決に臨んでいるようだ。
お互いの領分には踏み込まない。過程は無視して、結果だけが必要なのだ。




