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案件1 そして誰かがいなくなる 36

「あのアホ親父に会うのは勘弁して。まあ、人死にが出んで大団円で終わったのはよかったわ。俺は帰って一眠りするから」

 決して大団円には終わらなかったことを、駅で東大寺とうだいじと別れて一人綾瀬のマンションに向かった愛美まなみは知った。

「母体は無事だが、子供は助からなかったようだ」

 途中ファストフード店で、出勤前のOLに混じって朝食を摂ったり、操られて鏡を割った時についた切り傷を手当てしたりした為、愛美が綾瀬のマンションに着いたのは高校を出てから二時間近く経っていた。

 

 秘書の西川に社長室に通された愛美は、綾瀬の任務ご苦労という言葉に迎えられた。

 

 この男は何だって知っているのだ。

 

 一ケ月近くも行方知れずとなっていた産休間近の家庭科教師は、救急車の中で早産したという。死産だった。

「もう少し早く捜査していれば・・・」

 俯いた愛美に、綾瀬は二通の封書を差し出した。墨黒々と、退学届と封書の表には書かれていた。

 東大寺と愛美が、緑ケ丘高校に提出する為のものだ。

「人死にが出たのは自分の所為だと言いたいのか? そんな安っぽい同情心は捨てた方がいい。私達は聖職者でも、慈善団体でもないんだからな。あくまでもこれはビジネスだ」

 綾瀬の言葉を、愛美は冷たいとは思わない。愛美も頭では理解しているのだが、感情がついていかないのだ。安い同情だと言われても仕方がない。

 一度も会ったことのない他人の、しかもその赤ん坊の死を悼む気持ちが本当にあるのか愛美にも疑問だ。

 

 沢山の人の死に目にもあったし、愛美自身この手で人をあやめさえした。他人の死など人事に過ぎないと感じることが、愛美は怖かったのだ。

「馴れろとは言わない。自分がSGAのメンバーだということを、自覚していればそれでいい。初仕事にしてはよくやったと誉めてやろう。ビキナーズラックとも言うがな」

 相変わらず嫌味な男だ。

 

 愛美は苦笑しつつも、顔を引き締めた。

「何かが封印されていた銅鏡の、なれの果てです」

 愛美はブレザーの胸ポケットから、ハンカチに包まれた割れた鏡を机に置いた。綾瀬は鏡を手に取ると、サングラスの奥の目で眺めているようだった。

「あれは一体何だったんですか?」

 綾瀬は長い指で、曇った鏡の表面を撫でている。

「祟り神だな。とても古いものだ。神鏡として、呪法に用いられていたのだと思う。使い熟せる呪者がいなくなり、後は封じ込めておくだけで精一杯だったのだろう。そんなモノを、お前は調伏したんだ。大したものだ」

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