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案件1 そして誰かがいなくなる 33

「結界を解こうにも内側の世界から出られぬのでは、儂の力の及ぶ範囲も限られてくる。さあ、どうする。陰陽師のお前に儂が倒せるか。せっかく見つけたしろ。簡単には手放すまいぞ。誰が鏡の中に戻るものか」

 ことの成り行きを見守っていた信雄と朋子ともこは、愛美まなみの喉から発せられたらしいひしゃげた声に、思わず後退さった。

――てん清浄しょうじょう地清浄内外清浄 六根ろっこん清浄ト祓給ウ

「先程はなぜか不覚をとったが、祝詞など儂には利かぬぞ。これでは儂を封じ込めることすら無理であろうな」

 鏡の中の愛美がギッと音を立てそうな鋭い視線で、もう一人の愛美を睨んだ。

――ナラバネ。

 愛美は、恐怖を覚えたように身を竦めた。だが手の平を通して繋がった二人の愛美は、お互いが影のようにぴったりとくっついて離れない。

――ソレハ私ノ身体ダ。私ノ身体ヲ返セ。現身うつしみノ姿ヲ持タヌ影メ。去ネ(・・)

 鏡に触れた二人の愛美の手の平の隙間で、光が弾けた。


 朋子と信雄は目がくらんで、二、三歩後ろに下がるとその場に膝をつく。

 衝撃で、愛美の身体自身も鏡の側から離れていた。愛美は目を瞬かせながら、ハッとしたように自分の身体に視線を落とす。

――貴様・ハ・陰陽師・デ・ハ・ナ・イ・ナ・鬼道・ヲ・使・ウ・ト・ハ

 鏡の中の愛美も、愛美と同じように座り込みながら愛美を見ている。愛美は何も言っていないのに、鏡に映った愛美の唇は動いていた。

「ようやく元に戻れた。さっきはよくも、私の身体を勝手に使ってくれたわね。キドウか何かは知らないけれど、私がお前を封じ込めてやるわ」

 鏡の中の愛美の姿が消えた。勿論本物の愛美は、鏡の前から動いていない。


 うっという低くくぐもった東大寺の悲鳴が聞こえ、愛美は慌てて階段の上を見た。

 東大寺は、窓のガラスに頭を打ちつけそうなほど首を反らしている。窓から伸びた半透明の腕が、東大寺の首を掴んで引きずり込もうとしている。

――鏡・以外・デ・モ・姿・サ・エ・映・レ・バ・動・ケ・ル・ノ・ダ

 つまり姿が映れば、水溜りでもガラスでも構わないのだ。

――後・一人・揃・エ・バ・ド・ノ・ミ・チ・結界・ハ・解・ケ・ル

 抵抗を止めない東大寺は、向こうの世界に連れ込まれる前に、首が締まってしまいそうだった。

「東大寺さん。鏡を私に投げて」

 東大寺は苦しそうに顔を歪めながら、鏡を握り締めていた右手を上げた。

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