案件1 そして誰かがいなくなる 30
「ほんまのことは、ちゃんと自分の口から言いや。俺は事件以外には、興味ないねんから。自分でなんとかしい。今はそんなこと、どうでもええわ」
東大寺は二人についてくるように促して、自分は早速歩き始めていた。今、朋子と信雄の目には東大寺は、クラスメイトでもなんでもない赤の他人に見えていた。
「あんた一体、何者なの?」
東大寺は振り返らなかったが、どうやら笑ったらしい。
「ある時は普通の男子高生。ある時はSGAの調査員。その実体は・・・何やろうな」
真剣に聞いていた朋子が、馬鹿を見た。
東大寺が何者かは分からないが、ただのお調子者であることには変わりはないらしい。
東大寺は再び校舎に戻ると、鍵のかかっていた校長室の扉を数秒で開いた。東大寺だって、壊すだけが能じゃない。鍵を開けるのも得意なものだ。
「金庫か。ちょっと厄介やな。ということは、まだ愛美ちゃんは見つけてなかった訳や。これで、俺もちょっとは役に立つ男やと見直してもらえるわ」
校長室など、多数の生徒にしたら、滅多に拝めるものではない。
信雄も朋子も、その広くもない部屋を隅から隅まで見回している。
普通の校長室なら、歴代の校長の写真などが額に入れて壁中にかかっていたりするものだが、三年に満たない歴史の緑ケ丘高校の校長室にはそれがなかった。
現校長が初代だ。
東大寺は、棚に組み込まれたようになっている耐火加工をした金庫の前に座り込んで、ああでもないこうでもないとダイヤルをいじくっている。
校長室の見物にも飽きたらしい朋子と信雄が、東大寺の手元を覗き込んでくるのを彼は邪険に追い払う。
人の手の軌跡を辿って、数字の並びを割り出す。ドアのロックを弾く、簡単な仕事とは違う。
細かい作業には集中力が必要だ。
手持ち不沙汰な顔をしていた二人の耳に、カチリというダイヤルの数字が揃ったことを示す音が響いた。
「よっしゃあ」
東大寺も嬉しそうだ。
信雄と朋子が、金庫の中にはどんな宝物が詰まっているのかと興味津々に覗き込む。
把手を掴んで思いきり引くと、そこには・・・。
「俺、札束がぎっしりつまっているのを想像しちゃったよ」
「あたしも」
土地の権利書や建物に関する書類。残りは何か東大寺にも分からなかった。
問題はそんなものではない。二段に別れた下の段の方に、小さな漆塗りの箱が入っていた。
中を開けると、思った通り銅鏡が入っている。




