案件1 そして誰かがいなくなる 3
「またその話? 呪いとか幽霊とかって、馬鹿みたい。そんなのある訳ないわよ」
落合朋子は、そうすげなく返したが、愛美は思い切って尋ねてみることにした。
クラスの男子とふざけあっている東大寺が、目だけで愛美を見ている。東大寺は、催眠術で難なく二年C組の一員に収まっている。クラス一のお調子者というキャラクターは、地のままだろう。
東大寺はうまくやれと言うように、愛美に片目を瞑った。
「何ですか? 冬場に怪談なんて似合わないですよ」
一応クラスメイトではあるが、朋子も万里江も先輩だ。思わず敬語になる。しかも林万里江はぽっちゃりして温厚そうに見えるが、落合朋子は髪の毛を派手に染色しているような堂々たる校則抵抗者だ。
愛美は、あまり友達になりたくないタイプだと思う。世間との折り合いが付けにくいのか、一々他人や世間と衝突している相手と言うのでは、付き合いづらい。
「近藤さん、まだ転校してきたばかりだから、知らなくて無理ないか」
一瞬無視されるか、それとも露骨な嫌悪感を示されるかとも思ったが、落合朋子はすんなりと返事を返してくれた。それを引き取るように、林万里江が言葉を継ぐ。
「この学校、呪われてるの。この二ケ月間で、学校関係者が十人も次々と校内で行方不明になってるのよ。それでね、一人消える度に美術室の石膏像が一体増えるって話」
話が突然核心に向かい、愛美は俄然真剣な顔付きになる。
「バンリ。やめなよ。美術室云々の話って、うちの学校の七不思議の一つじゃん。今の三年が一年の時、美術部員だった少女がいじめを苦に自殺した日に、美術室に石膏像が増えてて、夜中になると啜り泣くってやつぅ」
万里江の綽名はバンリだ。七不思議などどこの学校にもあるものだが、愛美が知りたいのは行方不明事件が続いた原因だ。警察の言うような、営利目的の誘拐ではない筈だ。
愛美がこの学校に足を踏み入れた瞬間、それは本能的に感じていた。
「その十人、校内のどこで行方不明になったんですか?」
授業中、放課後を問わず消えた十人中十人とも失踪した場所は分かっていない。警察にも調べがついていないようだが、場所が明確になれば、十人を繋ぐ接点も事件の全容も見えてくるかも知れない。
「真に受けたら駄目だよ、近藤さん。病気で長期欠席の生徒や、登校拒否の生徒を含めての十人でしょ。信憑性ないよ」
朋子は肩を竦めて、バンリの言葉を全面的に否定した。