表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/201

案件1 そして誰かがいなくなる 27

 少女はすぐに後ろ姿になり、光も闇に溶けて見えなくなった。

 何をあんなに懸命に走っているのだろう?

 まるで誰かを、追いかけているようだ。――届かない何かを。

 

 光を感じる度に目を開けると、少女は横顔だったり後ろ姿だったり、もう残像しか残っていなかったりしたが、何とかして少女とコンタクトを取ってみたかった。

 光が見えないかと目を凝らしていたが、待っていると少女は現れない。いい加減疲れて目を閉じそうになった時、遠くに光が灯るのを見た。

「何処に行くの?」

 その言葉を言い終わった時には、少女は目の前まできていた。少女は立ち止まってこちらを見たが、まるで眩しそうに目を細めている。

 あまりに闇が濃いので、自分の姿は見えていないだろうと思うと安心した。

 

 もう一度同じ問いを繰り返すと、少女は顔を上げて毅然とした表情を見せた。

「私が元いた場所に。私がいるべき場所に」

 少女が何処か一点を見つめている。目を凝らしてみると、暗闇を切り取るように白い空間が見えた。

 

 それは扉だった。

 

 ここではない何処かに続く扉だ。

 

 少女は再び駆け出していき、扉の外へと消えていった。

――私が元いた場所に。私がいるべき場所に・・・ 。

 辺りは相変わらず濃い闇が漂っていたが、扉が四角く切り取った空間は、白い強い光で発光して自己主張をしている。

 

 まるでおいでおいでと手招きしているようだ。

 

 ここではない何処かへ。

  *

 東大寺とうだいじ朋子ともこのことなど、これっぽっちも気にしていないようだ。さっさと走って行ってしまう。

 向かっているのは裏庭らしい。

 

 朋子は、自分がどうして東大寺を追っているのかも分からなくなっていた。ただとにかく置いていかれては大変だと思っていた。だが、後どれだけ走ればいいのだろう。

 必死、努力などという言葉に縁のない朋子は、音を上げて東大寺を追うのを諦めようとした。しかしその時、東大寺もまた足を緩めていた。

「またお前か」

 朋子の所からでは角度が悪いのか、人の姿は見えなかったが、そこに誰かいるらしい。朋子は足音を忍ばせて東大寺の背後に近付き、相手が誰なのかを確かめた。

「何だ。菊池じゃん」

 朋子は安堵して、明るい声を上げていた。

 だが東大寺も菊池も、一種侵しがたい気配を漂わせていた為、朋子は怯気付いて口をつぐんだ。

 

 菊池信雄は、屋根の吹き飛んだ小屋のようなものの前にしゃがんでいた。

 跪いている感じだ。彼の横には、通学鞄とスポーツバッグが置いてある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ