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案件1 そして誰かがいなくなる 26

 東大寺とうだいじは、用務員室で朝食の支度をしていた年のいった男を催眠術で眠らせて、愛美まなみの言った銅鏡とやらを捜しているところだ。

 愛美の心に映った緑色の鏡のビジョンを読みとった東大寺だったが、細かい部分がどうなっているかまでは知らなかった。天性の勘で、愛美は自分には見つけられると自信たっぷりに言ったが、東大寺だって超能力者だ。

 サーチと言って、その人間の気配や、物の持つ電波のようなものをキャッチして、尾行したり探し物をしたりすることができる。


 東大寺は、大した趣味もないらしい用務員の簡素な老人の一人住まいの、それでも何かと小物の入った箪笥や棚を物色していった。まるで泥棒だが、別に何かを盗む訳ではない。

 

 とても大事な探し物の為だ。大目に見てもらいたい。

 

 朋子は、用務員室の玄関でぼんやりと東大寺を眺めている。

「地道な作業は俺には似合わん。鏡を包んでいた布か箱かなんかの手がかりがあれば、サーチも可能やねんけどな」

 布か箱・・・。

 東大寺はそこでハッと思い出した。

 

 どうしてもっと早くに気付かなかったのだろう。祠という、鏡を包んでいた大きな容れ物があったではないか。

 東大寺は、ポンと膝を打つと立ち上がった。

「俺がこの部屋から出た瞬間、おっちゃんは目が覚める。おっちゃんはほんの少しの間居眠りしてただけで、誰の姿も見んかった。いいな」

 東大寺は用務員の老人の耳元にそう囁きかけると、もう後も見ずに部屋から駆け去った。

「待ってよ。おいてかないで」

 朋子がそれを慌てて追っていく。

 

 用務員の男は、ハッと目を開けると頭を振った。つい今しがた掛けたばかりの薬罐から、湯気が上がっている。

 けたたましい音が鳴り響く前に、男は慌てて薬罐をコンロからおろした。

 僅かばかりの時間がとんでいることに、男は気付かなかったようだ。

  *

 ここは暗く。ここは寒い。

 上下の感覚も、東西南北という方位もこの場所では何の役にも立たない。

 ここは何処で、ここは何なのか。

 

 身体は鉛を溶かし込んだように重く、瞼を開いているのもやっとだ。

 どれくらいの時間がたったのだろう。時間の感覚も曖昧で、自分の身体の境界線も曖昧になっていくようだ。

 

 閉じかけた瞼の裏に光を感じて顔を起こすと、その一瞬自分の顔があることが知覚できた。

 一人の少女が駆けていくところだった。

 少女は闇夜の海を照らす灯台のように、世界を照らしている。それでもやはり辺りは暗く、出口のない闇にとらわれていた。

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