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案件1 そして誰かがいなくなる 25

 鏡に映ったもう一人の愛美まなみが、彼女と同じように足を止めている。突然、鏡の中の愛美の像が歪んだ。

――タ・ス・ケ・テ

 鏡の中から愛美の姿が消えた代わりに、林万里江まりえの姿が映った。

 万里江は愛美を、凝視している。

 しかし愛美は、動じなかった。

「何度もその手が通じるなんて、思わないでよ。助けに駆け寄った人間を引きずり込むのがお前の魂胆だということぐらい、お見通しよ。お生憎さま。十二人目の生け贄が手に入る以前に、お前は元の鏡に封じてやるから」

 万里江の姿が掻き消え、鏡には元の通りに愛美だけが映っていた。

 愛美はもう鏡には注意を払わず、自分の役割を果たそうと走り出した。壁の鏡には十分に間合いをとった・・・つもりだった。

 愛美が踏みしめた床は、その身体を支えることを放棄したらしい。落下する時の奇妙な浮遊感を味わったのを最後に、愛美の意識は途切れた。

 *

 東大寺が促した訳でもないのに、落合朋子ともこは大人しく彼の後についてきていた。

 一人にされるのが心細かったのかもしれない。うるさく詮索されないのも、よかった。

 東大寺と近藤愛美の素姓、SGAの存在、特に今回の事件について尋ねられたりしたらお手上げだ。

 東大寺が分かっているのは、ともえ和馬かずまが作成した書類に書かれていたことと、自分には手の出せない種類の仕事だということだけである。東大寺は紫苑しおんのように魔物や、愛美のように邪鬼はえない。

 長門は一匹狼で、組むとしても情報収集役として巴を使うぐらいだ。だから東大寺は、大抵紫苑がパートナーだった。

 東大寺は超能力者といっても、透視や人も連れての瞬間移動や予知能力といった、集中力のいる高等技術は不得手で、もっぱら何かを壊すのと暗示にかけるのが専門になっている。

 愛美は夜久野真名という陰陽師の一族の末裔ではなかったが、何らかの力を持っている。

 陰陽師らしい綾瀬(使い魔の鴉がいるのは知っているが、東大寺は綾瀬が陰陽力を使うのを見たことはない)や、宗教マニアの紫苑から(熱心に調べた所為で、やたらと呪いや宗教上の作法に詳しい)レクチャーしてもらって、今は陰陽師になる修業をしている。

 愛美は自分でも色々勉強しているらしく、今回の緑ケ丘高校の失踪事件について積極的に取り組んでいた。

 本当は、家族や大切な人達を失った心の傷は塞がっていない筈だが、まるで忘れてしまったかのように愛美は振る舞っている。

 何かにがむしゃらに取り組むことで、過去を忘れようと必死なのかもしれない。

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