案件1 そして誰かがいなくなる 24
「学校内に銅鏡がある筈よ。外にはまだ持ち出されていないわ。銅鏡からの呪縛からは解けたみたいだけど、奴は鏡の中から出られないみたい。奴が封印されていた鏡を探し出して、再び封印し直すわ」
出来るのかという問いを、危うく東大寺は飲み込んだ。
出来る出来ないの問題ではない、仕事についたからには何としてでも事件を解決しなければならない。
超常現象でも、神隠しのような怪奇現象は東大寺には分が悪いが、今回の仕事は幸いにも東大寺は愛美の援護役だ。せいぜい愛美に、頑張ってもらわなくてはならない。
「職員室を当たってみるわ。銅鏡自体呪術的なものだから、呼びかければ感応すると思うの」
二ケ月前とは愛美はまるで別人のようだ。
普通の女子高生だった少女が、こうも見事に非日常に馴染んでいるのも東大寺は怖いような気がする。しかし、今の愛美はとても自然で力に溢れていた。
「俺は地道に用務員室でも探してみるわ。んで、どうすんのこの娘?」
東大寺は、話の展開についていけていないらしい落合朋子を顎で示した。
背ばかりがひょろひょろと伸びた感じの少女は、小さい顔には不釣り合いな大きすぎる目で、愛美と東大寺をぼんやりと見ている。
危険な目にあったにしては、のんびりした態度のようにも思えるが、あまりにも非現実的な目にあって、思考能力が麻痺しているらしい。
騒がれない分ましだと、東大寺も気にしていない。
「彼女を一人にするのは危険だわ。それに、探すのは一人より二人の方がいいでしょ。東大寺さん。彼女のことをお願いね」
ていよく押しつけてしまった感もあるが、愛美はそれだけ言って東大寺の前から走り去ろうとした。
「愛美ちゃん一人で大丈夫か?」
愛美は東大寺の言葉に大丈夫だと言うように、手の平を振って、後は振り返らずに階段を駆け上がった。
二階の渡り廊下から、職員室のあるA棟へと出るつもりだ。廊下をあまり足音を立てないように走りながら、愛美はふと歩みを止めた。
廊下の壁にも大きな姿見があった。
この学校にはやけに鏡が多いと、愛美は転校してまず思った。
鏡は昔から呪術的要素が強く、その分危険な代物とされていた。
異界への入口とも言われるぐらいだ。
幼い頃愛美は、鏡の向こうにはもう一つの世界があるのだと信じていた。
その思いは『鏡の国のアリス』を読んだ時、より強固になった。半ば信じきって、アリスと同じように鏡の向こうに行けるつもりで、鏡に触れてみたりした。
勿論、鏡は鏡のままだったが。