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案件1 そして誰かがいなくなる 21

 電車を降りた朋子ともこは、改札を抜けて通いなれた高校への道を歩き始めた。途中、パトカー二台とすれ違ったが、朋子は避けるように路地に隠れた為、車からは見えなかっただろう。

 夜っぴいて、万里江まりえの失踪の手がかりがないかと、捜索がされたことは想像に難くない。

 朋子は閉めきられた校門から離れた塀の向こうに、鞄を放り投げた。人目がないことを確かめて、塀に飛びつくと朋子は校内に忍び込んだ。


 校舎の時計は、六時二十三分頃を差している。朋子はB棟の一階の、家庭科室に外から近付いた。

 三枚目の窓の鍵が揺るんでいて、少し揺さぶっただけで外れることを、家庭科室の掃除当番だった芽久めぐと朋子は発見していた。案の定窓は、殆ど労力を使わずとも開いた。

 朋子は窓の中に、滑り込む。

 

 昨夜十一時過ぎ、不作法とは知りつつ朋子は林家に電話をかけた。やはり、万里江は帰ってきていなかった。

 警察が、校内を手分けして探しているから、心配しないでいいのよと言った万里江の母親の方が取り乱していた。

 誘拐犯からの身代金要求にも備えて、逆探知器の取りつけられた電話で、万里江の母親は朋子が聞いてもいないことをよく喋った。

 緑ケ丘高校の連続失踪事件の、万里江は十一人目の被害者だということも分かった。芽久もやはり失踪していたのだ。

 警察の捜索でも見つからなかったのだから、朋子のやろうとしていることは馬鹿らしいことこの上ないかも知れないが、万里江と芽久を朋子は探し出すつもりだった。

 

 美術室は三階だが、二階と一階の踊り場で足を止めると姿見に、朋子は自分の姿を映した。

 

 万里江は顧問に美術準備室のキャンバスを、美術部室兼倉庫に運ぶように頼まれて、使用頻度の少ない埃を被っていたキャンバスを抱えてこの階段を下りてきた。

 鏡の前はとっくに片付けられていたが、顧問が悲鳴を聞いて駆けつけた時には、キャンバスだけが踊り場に散らばっていたという。


 ここで、万里江の身に何が起こったのだろう。


――タ・ス・ケ・テ

 鏡には、半透明の影のように透き通った万里江の姿が映っている。反射的に朋子は後ろを振り返った。

 踊り場にいるのは朋子一人だ。他には誰もいない。

 しかし再び前を見ると、鏡に映った朋子の姿にかぶさるようにして万里江の姿が重なっている。


 鏡の中に、万里江がいる。

 

 朋子は後先考えずに、鏡に手を伸ばしていた。伸ばした手が、腕まですっぽりと鏡の中に吸い込まれてしまう。

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