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案件4 きみにあいたい 67

 愛美と東大寺とうだいじは、エレベーターの箱の中でも沈黙したままだった。

 四階に着く。

 東大寺が先に立って歩くのを、愛美は彼のシャツを掴んで引き止めた。

「記憶、消すつもりだったんでしょ。余計なことして、ごめんなさい」

 東大寺は振り返ると愛美の顔を覗き込むと、くしゃっとした笑顔を見せた。

「誰かに覚えていて欲しいと思うのは、こんな仕事についている俺らと切っては切れんもんなんやろな。人生は一期一会や。俺らなんか特にそうや。あのオヤジやないけど、闇に生きる者の運命さだめってやつ」

 東大寺も、萩原の記憶を消去してしまうことに、ためらいがあったのだろうか。そう思わせる口振りだった。

 東大寺が、持っていた鍵でドアを開ける。スニーカーの紐を外そうとしゃがもうとした東大寺の背中に、愛美は突然抱きついた。

「おっ!?」と、怪訝そうに東大寺が声を上げる。

 萩原がいると東大寺も照れ臭いだろうと思って言わなかったが、どうしても言っておきたいことがあった。

「私の為に、涙を流してくれてありがとう」

 やっぱり東大寺は、身体を硬くさせた。

 

 愛美が喉を突いて死んだと思った東大寺が見せた涙。

 愛美はその時、生きていてよかったと思ったのだ。

 自分の為に泣いてくれる人がいるのが、嬉しかった。

「愛美ちゃんは、俺にとって可愛い妹みたいなもんやから」

 東大寺は照れて頭を掻きながら、ぶっきらぼうに答えた。

「それって、女の子にはかなり失礼な発言なんだから。好きな人に妹にしか見てもらえないなんて、すっごく傷付く」

 愛美は怒ったような顔で、東大寺の横をすり抜けると、靴を脱いで家に上がった。

 東大寺は思わず言葉の意味を考えて、え?という表情になる。

 慌てて靴を脱ごうとして、転びそうになった。もしや…… 。つまりそういうことですか。なぜか東大寺は、丁寧語になってしまう。

 しかし、愛美はくるりと振り返ると、無邪気な笑顔を東大寺に見せた。

「お兄ちゃん、お腹減った。何か作って」

 あちゃー。ガクリとその場に膝を折りそうになる東大寺。

 その笑顔は罪だ。


「萩原さん。今頃どっかのお店で、おいしいものでも食べてるんだろうな」

 愛美は膨れて、缶詰めのシーチキンをマヨーネーズで和えたものを、箸でつついてる。

 買物を忘れていて、夕食に食べるものが何一つなかった。

 こんなことなら今朝、長門に残り物の煮物を勧めたりするんじゃなかったと愛美は思う。

 東大寺は、御飯にふりかけをかけただけでも何杯も食べられるようで、愛美の言葉を聞かないふりで、ひたすら御飯を頬張っている。

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