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案件4 きみにあいたい 61

「恐山のイタコのやる口寄せと同じだ。その水鏡の精とやらが、彼女にのりうつって、彼女の口を借りて話していることになる……んだろうな」

 萩原は、疑っているらしい。

「ってことは、水鏡の精ってことは、迦耶かや姫とかの幽霊ではないってことか?」

「そういうことにしておきましょう。迦耶姫の時代、この地方には水鏡の伝説があった。山中のどこかにある泉に、二度と会うことの叶わない人の姿を見ることができるという伝説が。そうでしょう。水鏡の精さん?」

 いま喋ったのは、愛美なのか?

 東大寺とうだいじの疑問に答えるかのように、愛美が小さく頷いて見せる。とり憑かれているんじゃなかったのか。

「たった一度でもいい。愛しいあの人の姿をと、願う気持ちはいつの世も同じ。せめて夢の中でも、せめて幻でもいい」

 千尋……。

 八木圭介が死ぬ前に、部活で東大寺と交わした最後の言葉が思い出される。

 二年生同士で最近見た夢の話をしていたのに、東大寺は混ざるともなく聞いていた。

『最近、小さい頃の夢ばかり見るんだよな』

 東大寺もここのところ、やたらと昔の夢ばかり見る。記憶と寸分違わないその夢は、東大寺にとってまさに悪夢だ。

『弟もまだ元気だった頃の夢』

 八木は確か、兄弟はいないと言っていた筈だ。東大寺も、一人っ子で通している。

 亡くした妹の話は、誰にも聞かせるつもりはなかった。

『お前、一人っ子ちゃうかったん?』

『いえ、俺の弟、赤ん坊の頃に死んだんすよ。生きてたらなぁって、よく思うけど。いたらきっと、鬱陶しいんだろうけどさ』

 せめて夢の中でも。せめて幻でも。

 これは愛美の言葉じゃない。

 次の台詞は、厳しく詰問するような口調にとって変わる。

「その代償が命という訳?」

 堀田は幼馴染み。佐藤は母親。そして八木と東大寺は、死んだ弟妹に。

 東大寺以外は、みんな死んでしまった。いや、東大寺だって命を落としていたかもしれないのだ。

 代償としては、重いだろうか?

 愛美が、いや水鏡の精が首を横に振る。

「死者であることを忘れて、人は幻にとりこまれてしまう。迦耶姫と呼ばれた娘も、死んだ男に恋焦がれて、ここで喉を突いて死んだ。しかし死者は死者として、生者は生者としての分を弁えて、あなたのように死を選ばない者もいる」

 東大寺は、目をこすった。萩原も、目をパチパチとさせている。

 ということは、萩原にも見えているらしい。

 愛美の身体にダブるようにして、人の姿が重なって見える。十二単衣ひとえのような装束をまとった髪の長い女だ。

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