案件1 そして誰かがいなくなる 19
守護結界の要となる祠は十二基で、緑ケ丘高校で行方不明になったのは万里江を入れて今のところ十一名。
愛美の計算では、後一人行方不明者が出る筈だった。
多分、銅鏡に封じられていたのは古代の土地神だろう。
封印は解けても守護結界の為に身動きがとれないらしく、結界の破壊と完全な復活を望んでいるのだと、愛美はいつしか理解していた。
行方不明者達は、その為の生け贄だ。
まだみんな生きているだろうが、後一人が揃えば彼らの命の保証はできない。万里江が消えて今日明日で次の犠牲者が出るとも思えないが、愛美は明日の早朝に学校に行こうと東大寺に提案した。
何をするのか、それは明日になれば分かる。
「萩原武史か。新聞記者を名乗って事件を嗅ぎ回っとるなんて、案外どっかのオカルト雑誌かも知れんな。綾瀬に連絡しといた方がええかも知れん」
話題は事件そのものから、怪しげなマスコミ風の男のことに転じる。
東大寺が、愛美が出したチョコチップクッキー(手作りケーキ屋さんを見つけて、途中で思わず買いに寄ってしまったのだ)を必死でパクついている。
紫苑も紅茶のカップを両手で包みながら、愛美に言った。
「どうして名刺をもらっておかなかったんですか。巴君に調べてもらえば、携帯の番号からその男の素姓が洗い出せたのに」
「番号なら暗記して、後でメモして綾瀬さんに一応伝えたので大丈夫です」
東大寺と紫苑は顔を見合わせた。
流石。しっかりしている。
SGAでの仕事が初めてとは思えないほどの、的確な判断と細かい気の使いようだ。愛美は案外、SGAの仕事に向いているのかも知れない。
後片付けを終えた紫苑は一人家路につき、東大寺はその晩はマンションで過ごすことにした。
東大寺の家からでは、緑ケ丘高校まで一時間近くかかる。早朝出勤だと、始発に乗らなければならないだろう。
東大寺は、そんなのはごめんだった。
東大寺は半年前まで使っていた自分の部屋のベッドに潜り込むと、明日に備えて目覚ましをセットして眠りについた。
結局は目覚ましを止めてしまい、愛美に叩き起こされる羽目になってしまったが。
*
冬の早朝の空気は、肌を刺すように冷たい。
始発から数本後の電車は、まだ乗客が少ない。眠たそうな顔をしたサラリーマンやOLと並んで、落合朋子は電車に揺られていた。
昨日の夜の七時過ぎ、林万里江の母親から電話があった。