案件4 きみにあいたい 56
平坦に見えた日常に、突然ぽっかりと口を開いて、非日常へと突き落とされる。
運命に流されるようにして事件に巻き込まれ、強制的にSGAでの生き方を受け入れなくてはならなかったけれど、今の愛美は自分で選んだ人生だと胸を張って言うことができる。
最終的に今の生き方を選んだのは、愛美自身だ。
後悔はしていない。後悔はしていないが、
「私も罰されることなく、のうのうと暮らしている犯罪者だわ」
あれは正当防衛だったと、愛美の中で囁く声がする。
何が善で何が悪なのか。誰が悪くて、何が間違っていたのか。
それは、一概には言えない筈だ。
難しい問題を含んでいると言ってしまっては、ただ逃げていることになるのだろうか。
犯罪と人の心に潜む闇、そして死。
SGAにいる限り、それらのものから愛美は逃れられないだろう。
愛美は、罪を重ね続けることになる。
「君も、いろいろ大変な目に遭ってるんだね。君がSGAにいるのは、罪滅ぼしの為なのかな?」
萩原の手の平を通して、体温が伝わってくる。
愛美はふと、泣きたくなった。誰かに慰めて欲しかった。
SGAのメンバーは、みんな見ないふりをしてくれる。人には、踏み込んではいけない不可侵の領域があるからだ。
時が経てば、いつしか痛みも薄れるだろう。心に深く刻まれた瑕として、痛みは形骸として残る。
何も言わず、側にいてくれる存在も必要だ。愛美だって、自分で乗り越えなくてはいけないことを知っている。
でも少しは…… 、立ち直るのは自分の足でだ。
「私は家族と級友を殺されて、殺した相手を心底憎悪しました。相手を憎むと同時に、自分も憎かった。私さえいなければって。復讐を終えて、私には何も残らなかった。彼らもまた私と同じ、どうにもならない思いを抱えていたの。悔やんでも遅かった。死んだ人間は二度と戻らない。でも私は、こうして生きている。私の所為で死んだ人達に恨まれるのは、当然だわ。でも信じたいじゃない? 私は生まれてきてよかったんだって。だから私は今ここにいるの」
そう言った愛美の顔には、笑顔があった。
(罪滅ぼし。ううん。そんなものじゃない。誰かの為? 何かを守る為? 守りたいのは今、自分の生きているこの時だ)
過去は過去として、しかしその過去の積み重ねで自分がいることを忘れてはいけない。
「今の社会情勢や犯罪傾向なんて、私には分からない。ただ、自分が係わった事件に関しては、こう言えるわ」