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案件4 きみにあいたい 53

 泉が見つかる可能性は限りなく低かったが、東大寺とうだいじはそのことは愛美達に黙っていた。

 何とかなるさという、東大寺の持ち前のポジティブ思考だけでなく、必ず見つかるという予感のようなものがあった。

 まるで、呼ばれているような感じだった。千尋ちひろが、呼んでいるのだ。


 

 何が、合宿所までは二十分ほどで、すぐに着くだと、愛美は思う。

 もうとっくに二十分は、過ぎている。

 山道を歩きながら、愛美は腕の時計に目を落として溜め息を吐いた。東大寺はもちろん、体力が勝負の記者である萩原も、足には自信があるようだ。

 東大寺達バスケ部員は、合宿の時は一週間分の大荷物のスポーツバッグを持って、この道を辿るのだから、大したものだ。

 東大寺も萩原も、女の愛美を気遣ってくれるが、そんな心配は不要だ。

 愛美だって、以前に比べるとずっと体力が増した。山道を全力疾走してヘロヘロになって長門に馬鹿にされたような、いつかのような醜態はさらさずに済むだろう。

 今だって疲れてはいないが、問題は別なところにある。萩原は何も知らないので、黙々と東大寺の後をついていけるのだ。

 愛美の不安は的中しそうだ。もしかして、すでに迷っているのかも知れない。

 先導者が東大寺だというのが、初めからこの道行きの不安を示していたのではないか。

「霧だ」

 萩原が、驚いたように呟いた。

 重くまとわりつくようなひそやかな気配が、辺りを満たし始める。

 愛美が立ち止まり、萩原も足を止める。東大寺も暫くして歩くのを止めた。

 霧が山道を閉ざし木々を包み込み、景色をぼやけさせる。白い波が、足元からヒタヒタと這い上ってくる。

 愛美は、酸素不足の金魚のように喘いだ。

 ミルクのような霧の微粒子が、肺の中の沈殿していくかのようだった。

 この季節にこの土地では霧が出るのだろうか、まさか? 

 何か妙な気配を感じる。

「普通の霧じゃないわ。気を付けて」

 東大寺が何か言ったような気がしたが、よく聞こえなかった。

 東大寺の姿が、霧の中に消え去る。

 こういう時に団体行動を乱すとは、何事だろう。協調性を欠いた行動は、この場合命とりになりかねない。

「……って言ってるそばから、東大寺さん。何やってるんですか!」

 愛美が何度も大きな声で呼んでも、東大寺の返事はなかった。

 声が聞こえないほど遠くにいる筈がない。返事ができない状況にあるのか。

 いや、やはりこれは霧の所為と見るべきだろう。

 霧はすっぽりと、愛美達を包み込んでいる。

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