案件4 きみにあいたい 52
「悪意ならあります。嫌味の一つも言いたくなるのは、本当だもん」
愛美は小さく、イーッとしてやる。
長門に殺されるのは可愛そうだが、マスコミはどうも好きになれそうにない。
(しつこい奴は嫌いだ)
萩原はむくれて、唇を噛んでいる。
今の萩原に、恋人の話は禁句なのだ。結構落ち込んでいたりするのだ。これでも。
「誰の所為でフラれたと思ってるんだ」
愛美がムッとする番だ。
「私の所為だって言うんですか。そっちが余計なことに、首を突っ込むのが悪いのよ」
それは分かっている。全ては萩原の、甲斐性のない所為だ。
「デートかい?」
萩原の口調は、いかにも羨ましいと言わんばかりだ。
東大寺が頷いて、天気もいいしなと相槌を打った。萩原がニヤリと笑みを洩らす。
嫌な予感がすると愛美が思ったら、やはり萩原はこんなことを言い出した。
「悪いけど邪魔させてもらうよ。今日一日、君達の動向を追わせてもらう」
「駄目よ」
愛美がすかさずそう言ったが、東大寺はまたしても、なあなあで済ましてしまった。
「構わへん。ついてきたかったら、来たらええねん」
――そんなぁ。
愛美がキュッと唇を突き出して、膨れる。
「遊びに行くんじゃないんですよ。もし、何かあったら」
萩原を邪魔にしてというより、萩原の身を案じた発言だということに愛美は気付いていない。
「何かあったら、そん時はそん時や。それに、客観的に判断できる立場の人間がいるのもええもんやで」
「客観的ねぇ」
愛美は、胡散臭そうな顔をした。
これ以上何か言うのも憚かられるので、愛美は萩原と行動を共にすることを渋々ながら承諾したのだった。
奥多摩までの行程は、東大寺任せだ。
愛美は奥多摩は初めてだし、萩原は青梅街道を車でしか行ったことがないからだ。電車だけでも二時間。
一旦合宿所まで行って、それから逆に辿ることになるので、目的地まで三時間近くかかる計算だ。
東大寺一人の脚力ならもっと短時間で行けるが、それでも見るところ愛美の足も達者そうだ。日頃から鍛えているバスケ部員の男子に、それほど劣るとも思えない。
不摂生そうな萩原も、仕事柄足を棒にして駆け回っているのか、足腰だけはしっかりしていそうだ。
泉の場所を知っている唯一の二人が死んでいるので、話を聞いたという二年生達に当たってみたが、二人はそもそも迷子になっていて、その泉を見つけたのだからして、その湧き水のあったと言う場所もかなり怪しいものだった。