案件4 きみにあいたい 51
「最後の八木圭介は、弟が病死していました。三人の共通点らしいものと言えば、これぐらいしかないわ。後、全員バスケ部員だということと、現在二年生だということ」
萩原の聞き込みの成果だ。
あと、病院の医師や救急隊員に当たって、分かったことがある。
「最後の八木君は即死だったんで分からないんですけど、死の間際、前の二人はとっくに死んだ筈の人間の名前を呼んでいたそうです。多分、東大寺さんもそうなんでしょうけど、亡くなった筈の人を見かけて、追いかけようとして彼らは事故に遇ったんでしょうね」
東大寺の箸が、止まっている。
食事中にする話題じゃなかったかなと愛美が心苦しく思った時、東大寺の箸が素早く動いて愛美が半分残しておいた目玉焼きを奪い去った。
(私の目玉焼き!)
東大寺は、目玉焼きを一口で平らげると、
「そういうことやろな」と、呟いた。
食べ物の恨みは恐ろしい。珍しく白味の底が焦げもせず、半熟でもなく上手に焼けたというのに。
だがそれは、東大寺のうまいの一言で帳消しになった。誉められるとやはり嬉しい。
東大寺は横目で、愛美の皿の上のソーセージを狙っているが、そこまでは許さない。愛美が、ソーセージをフォークで口元に運ぶのを見ながら、東大寺は言った。
「泉の水を飲んだ祟りやないかって、噂になっとる」
祟り……か。大切な人の姿となって現れる。幽霊、ということはない……よな。
二人が支度をして家を出たのは、まだ八時前だった。
玄関前の植え込みのブロックに、男が腰掛けている。
愛美は疲れたように目頭を押えたが、東大寺は呑気なものだ。お早うと萩原が挨拶をしたのに、東大寺も気軽に答えている。
「こんな朝早うから、御苦労やな」
本当に御苦労なことだ。
頼みを聞いてくれたお礼に、今までの事件の真相を話すと言ったのに、まだ愛美達をつけ回す気らしい。愛美の言葉を信用していないのか、よっぽど暇なのか。
「日曜日にこんな所で腐ってて、彼女いないんですか?」
萩原がガックリと頭を下ろす。
愛美はしまったと口元を押さえた。図星だったらしい。
実際は、萩原が金にもならないネタに夢中になっていて、恋人に愛想を尽かされたというのが本当のところなのだが。
東大寺が、ふむふむと頷いている。
「愛美ちゃんには悪気はないねんで」
東大寺はそう言ってフォローするが、ここで甘い顔をすると、この男、どこまでもつけあがりそうだと愛美は思う。




