案件4 きみにあいたい 50
愛美は、キッチンに向かうと手早く朝食の用意を始めた。
オーブントースターに、パンを突っ込む。
冷蔵庫から、牛乳とバター、玉子を取り出そうとふと振り返ると、キッチンの入口に長門恭一郎がぬぼーっと立っていた。
あげそうになった悲鳴を、愛美は辛うじて飲み込む。
驚いた。いるならいると声ぐらいかけて欲しい。
それは彼の性格上有り得ないことは承知だ。足音どころか気配すら感じさせない。
職業柄か。嫌な職業柄だ。
(また朝っぱらから飲むつもりだろうか)
大型冷蔵庫のかなりの部分を、長門の飲むビールやなんかが占めているが、その消費も早い。アル中なのだ。
「珍しいですね。こんな早くに起きてるなんて」
長門は相変わらず、不機嫌そうだ。いつものことなので気にしないが。
「いま帰ってきたんだ。これから寝る」
さようでございますか。
長門の身体からは、アルコールに混じって硝煙の臭いがする。
人を殺したのだろうか。
暗殺者かボディガードか何か知らないが、死に対する感覚が麻痺しているんじゃないかと思う。
人が死んでも何とも思わない。
長門は、自分が死ぬ時でもケロリとしていそうだ。
「冷蔵庫に昨日の残りの煮物が入ってるんで、酒の肴にしてくださいね」
(気にしない。気にしない)
長門は、愛美の笑顔を珍しいものでも見るように眺めていたが、ふと顔を逸らした。
「マスコミがうろついているようだが、邪魔なら始末しておこうか?」
――面倒が起きる前に、芽は摘んでおくべきだぞ。
萩原のことだ。
愛美は少し困った顔になる。
長門が始末をするということはつまり、口封じの為に萩原を殺すということだろう。
愛美は俯いて、そのことは東大寺さんが任せておけと言っていたと嘘を吐いた。
長門は冷蔵庫からビールと、愛美の勧めた煮物の小鉢を取り出すと、何事もなかったような顔をして出ていった。
「差し出がましい口を利いて、悪かったな」
愛美が朝食を食べようとしていると、東大寺も起き出してきて、自分の分の食事の用意を始めた。
炊飯器に残っていた御飯に、温めた昨夜の大根の味噌汁をかけただけの簡単なものだ。二杯、三杯と猫御飯をかきこんでいる。
「あのね。ごめんね。気になるから、実は勝手に調べさせてもらったの」
そう前置きして、愛美は話し始めた。
「最初に亡くなった堀田君ですか、幼馴染みが小学校二年生の時、事故で死んでます。その次の佐藤裕は、二年前だから、中三かな? で、母親がこれも事故死」




