案件4 きみにあいたい 49
なぜか東大寺は、萩原を気に入ったらしい。
納得いくまで君達のことを調べさせてもらうと、はた迷惑な宣言をして怪気炎を上げた萩原を、好きなようにしぃの一言で、東大寺は済ませてしまった。
本当なら、ここで愛美としては萩原に弱みを見せる訳にはいかないのだが、
「あなたに頼むのは癇に障るけど、そうも言ってられないから」
萩原が苦笑しているらしいのが、聞こえる。
巴をつかまえて頼んだら、すげなく断られてしまったのだ。綾瀬が先に手を回したのだろうか。
それにしても腹の立つ。可愛げのないお子様だ。
仕事以外で情報集めをするつもりはないと、きっぱり振られてしまった。
(思いやりの破片もないんだから。自分で調べられることなら、人に頼む訳ないでしょう)
「星成西高校でここ最近、四月に入ってからなんですけど、三人の生徒が事故死しているの。三人の事故に遇った時の様子を、詳しく調べて欲しいんです。それから、三人のごく近い身内で亡くなっている人がいないか」
思った通り、萩原は報酬を要求してきた。
まさかタダで教えて貰えるとは、愛美だって思っていない。
「お礼は払うわ。私の身体で」
と言った途端、愛美は思わず受話器を耳から離した。
何が「えーっ」だ。
冗談に決まっているではないか。そこまで嫌がらなくてもいいだろうと、愛美はムッとする。
いちおう愛美だって、十六才の乙女だぞ。
「嘘よ。あなたが知りたがっていた真実とやらを、教えてあげるわ」
もちろん全ての事件のではないが。マッドドッグの顛末ぐらい、教えても構わないだろう。
犠牲者の一人は、萩原と面識があったのだから。
萩原は、それで手を打ったと答えた。
愛美は自分からまた連絡を入れると萩原に告げて、その日はそこまでで電話を切った。
*
待ちに待った日曜日の朝は、東大寺の願いが通じたのか、気持ちいいぐらいの青空が広がっていた。
ピクニック、もとい遠出にはうってつけだ。
愛美は、活動的なデニムとハイネックの白のセータに着替えた。
東大寺の部屋を覗くと、彼はまだ寝息を立てていた。
部活の朝練で毎朝早いので、可愛そうに思ってもう少し寝かせておくことにする。
男の子なので身支度を整えるのも早いものだ。
いつも電車に乗り遅れないギリギリまで寝ていて、五分も経たない内に家を出ていく。バタバタとうるさいので、愛美もそれで目が覚めてしまうのだが。