案件4 きみにあいたい 47
「西川がここに、あれを連れてきたんだ。私はすぐさま、元いた場所に捨ててこいと言った。こんなに荒れた奴じゃ、ぜったい役に立たないと思ったんでな」
東大寺をあれと呼ぶ綾瀬の、淡々とした語り口が、愛美に言いようのない恐怖感を与えた。
しょせん綾瀬にとっては、SGAのメンバーは使い捨ての手駒の一つに過ぎないのだろうか。
紫苑も、心なしか暗い表情になる。
記憶を失ったままの紫苑。愛美達は、綾瀬の役に立つ為に拾われた捨て猫なのか。
「妹を死なせたのは、自分の落ち度だと苦しむのは勝手だが、自暴自棄になるのは、はっきり言って大馬鹿以外のなにものでもない」
妹を亡くして、東大寺は自暴自棄になっていたというのか。
愛美が、自分の身を守る為とは言え、この手を血で汚す結果となった、神崎兄妹との血みどろの復讐劇が思い出される。
兄の大和が愛美の家族をその手にかけ、瑞穂がクラスメイトを惨殺させたのだ。
それもこれも、彼らの両親を殺した夜久野一族の末裔が、愛美であるという嘘で塗り固められた那鬼の言葉の所為で。
愛美によって瀕死の重傷を負った瑞穂を、東大寺が病院に運んだのだった。
妹の復讐だと息巻いた大和に、たった一人の妹を失ってもいいのかと東大寺が涙ながらに訴えたのだ。
東大寺の様子は、真に迫っていた。だからこそ、大和は心を動かされたのだ。
きっと東大寺は心の中で、自分が妹を亡くしたこととダブらせていたのだろう。
結局は大和は反旗を翻したため那鬼に殺され、瑞穂も兄の後を追うように意識を回復することなく死んだ。
「妹さんは、風邪をこじらせて亡くなったんでしょう。東大寺さんの落ち度って、どういうことなんですか。何かあったんですか?」
それに対する綾瀬の返事は、簡単明瞭だった。
「さあ、それは知らない」
愛美は転けそうになる。それを聞きたかったのに。
「もういいです。どうせ力を貸す気だってないんでしょ。関係ないって顔してるもん。あなたには頼まない」
愛美はついにキレた。力一杯そう言って、立ち上がる。
(いつだって、高みの見物を決め込んでいるんだから)
愛美が部屋を出ていこうとすると、綾瀬が呼び止めた。
悪かったとでもいうつもりだろうか。まさか、綾瀬に限ってはそんなことはないだろう。
思った通り、そうではなかった。
「ちょっと待て。渡しておこうと思っていたものがある」
綾瀬は暫く机の引き出しを探っていたが、小さな巾着袋を取り出した。