案件4 きみにあいたい 46
「遥の過去なら、私より西川の方が詳しいだろう」
秘書の西川。
彼女なら意地悪な綾瀬と違って、話を聞けば快く愛美の質問にも答えてくれる筈だ。姿が見えないが、キッチンにでもいるのだろう。
愛美達が綾瀬の元を訪れている時、綾瀬の秘書という触れ込みの彼女は、お茶を出す時以外顔を見せない。
紫苑がいれば、それも紫苑の仕事となる。来客中は部屋には入らなくていいと、綾瀬に言われているのだろう。
愛美はさっと立ち上がりかけたが、紫苑が首を横に振って、彼女の不在を教えてくれた。
「さっき買い出しに行ったので、当分帰ってきませんよ」
タイミングが悪い。
愛美が、力なく再びストンとソファに腰を下ろすのを待って、綾瀬が口を開いた。
愛美の気落ちした様子を忍びなく思ったのか、それとも、いつものように意地悪く目の前にネタだけぶらさげて、肝心なことは言わないつもりか。
「今でも馬鹿だが、私が初めて会った時は、救いようもない大馬鹿だった」
どうやら後者のようだ。
でも、綾瀬と東大寺は西川の引き合わせによって出会ったのだろうか。
東大寺は、どんな経緯でもってSGAのメンバーとなるに至ったのだろう。
東大寺は、高校まで関西にいたと言っていた筈だ。と言うことは、上京して二年ほどにはなるのだろうか。東大寺は中学浪人をしているらしいので、いまいちよく分からない。
愛美の時はというと、瓢箪から駒といったところだったらしい。
綾瀬が、弟である那鬼(愛美の命を狙っていた)の動きを、東大寺と紫苑に追わせていて、結果彼らは愛美と出会った。
紫苑に連れられて、愛美は綾瀬の元へ身を寄せる羽目になり、今に至るという訳だ。
二年前の東大寺。
一体どんな少年だったんだろう。二年ぐらい前では、そう今と変わる筈もないか。
勿体ぶらずに話してくれればよいものを。
そう思っていた時、紫苑が横から合いの手を入れた。
「可愛いかったですよ。あれはあれで。髪の毛も長かったし、金髪に赤いメッシュを入れて、イギリスのパンク少年みたいでした」
愛美が目を剥いて驚く。
意外だ。
短髪、爽やか、スポーツ少年の東大寺の過去とは思えない。
(うーん。東大寺さんが金髪! 想像できない)
「殺し以外の、犯罪全てに手を染めていたと言っていい」
その言葉で愛美は真顔になった。
(嘘だ。東大寺さんがそんなこと)