案件4 きみにあいたい 43
愛美は東大寺に頷いて見せて、リビングにある電話の受話器をとった。
「はい、もしもし」
電話をしてくるのは、紫苑か綾瀬と決まっている。
電話番号は電話帳にも載っていないので、セールスやいたずら電話に悩まされることもない。
電話の向こうで、相手が狼狽する様子が手にとるように分かる。
「あ……れ? え、もしもし、あの……遥……東大寺さんのお宅、あれ」
東大寺の親戚か知り合いだろうか。困惑している彼をよそに、愛美は一呼吸おいて、
「東大寺さんですね。少々お待ちください」
自室に戻ろうとしていた東大寺を呼び止め、受話器を渡す。東大寺は、誰とも聞かずに電話を受けとると耳に当てた。
「ああ、ナオヤか」
東大寺の友人だったようだ。早口で相手が何か言うのを、東大寺は口を挟まずに聞いている。
――ヤギガ……テレビ……タタリ……ツギハダレガ……
「テレビ?」
東大寺は愛美を振り返ると、
「愛美ちゃん、悪い。ニュースつけて」
愛美は言われた通り、テレビのスイッチを入れると七時のNHKニュースにチャンネルを合わせた。事故現場かららしい、中継の最中だった。
薄手のスプリングコートを着た若い女性アナウンサーが、真剣な面持ちでマイクを握り締めている。
愛美は、これらの惨事を伝える時のアナウンサーの浮かべる、とってつけたような殊勝な表情が大嫌いだ。
――なおこの事故で星成西高校の生徒、八木圭介君十六歳が頭を強く打って死亡しました。
「老朽化したビルから看板が落下したんだって、危ないねーっ。そう言えば、星成西の生徒が事故死するの、これで二人目じゃ…… 東大寺さん?」
愛美は怪訝な顔をする。
東大寺は電話の向こうから呼びかける声を無視して、受話器を力なく下ろしている。
相手はしきりに何か言っている。タタリがどうとか、愛美の耳にも届いた。
東大寺は次のニュースに移ったテレビの画面を凝視し続け、何も言わないままで電話を切った。
「これが、三人目や」
愛美の話は、ちゃんと聞いていたらしい。
東大寺は茫然としたまま、暗憺たる声で小さく口走った。もう愛美の存在を念頭に置いていないような口振りだ。
「千尋……なんか?」
またその名前か。
東大寺の死んだ妹の名前がなぜ、今頃最近になって度々出てくるのだろう。
星成西の生徒が立て続けに事故死。まさか三人が三人ともバスケ部で、東大寺の後輩だというのか。