案件4 きみにあいたい 42
直哉はその場に立ち尽くしたまま、ふるふると拳を震わせている。
しかし、東大寺に話したことで気が軽くなったらしい。
直哉は、持っていたバスケットボールを東大寺の背中目がけて投げつけた。背中にまで目がついているかのような素早さで、東大寺が振り返りざま、ボールを受け止める。
直哉は、体育館の入口を指差した。
「遥、体育館外周二十周」
すかさず東大寺が吠えた。
「やつあたりすな、ボケェ」
ボールを軽くドリブルすると、ゴールに放り込んだ。ボールは奇麗な放物線を描いて、吸い込まれるようにゴールに収まる。
ほうと、一年から溜め息が洩れた。
「ナイスシュート」
一年に親指を立てて東大寺は笑顔で応えると、律義にも体育館の入口に向かって歩いていく。
一応キャプテンには従わなければ。
「俺を恨んでるのか……恨まれて当然やもんな」
そう一人言ちた東大寺の表情は、暗く沈んでいた。
*
七時過ぎに夕食を終えると、東大寺が珍しく予習があるからといって自室に引き上げようとした。
今日のメニューは、東大寺お得意の、残り物を炒めたチャーハンと、コンソメスープと笹掻きゴボウと鶏ササミのサラダの三品だった。
東大寺が部活から帰ってきてお腹が空いているので、手早くかつボリューム満点の料理が多い。それでも、栄養が偏らないように注意してあるのは、運動選手だからだろう。
東大寺は食べ終わった食器を流しまで運んでくれながら、
「紫苑が作ってくれる、豪華な食事が恋しいやろ?」と言った。
紫苑も、SGAメンバーでモデルという裏と表の仕事といった、二足の鞋を履いた生活が忙しいらしく、マンションにきて夕食を作ってくれる回数が減った。
久しぶりに紫苑の手料理が食べたいと、愛美も思う。
「でも、東大寺さんが作ってくれる方が、私が作るよりずっとおいしいでしょ。私がチャーハン作ったら、絶対焦げるか、べちゃっとなってまずいもん」
愛美は料理が下手だ。
別に、家にいた頃母親の家事の手伝いを、サボっていた訳ではない。掃除洗濯は大丈夫なのだが、どうしても料理だけは駄目だった。
ちょっと嫌味だったかなと後悔する。
後片付けは、愛美の役目だ。
白いセーターの腕をまくる。いつもなら皿洗いも手伝ってくれるほど、東大寺はまめまめしく働いてくれる。
東大寺がダイニングを離れようとした時、ちょうど電話が鳴った。