案件4 きみにあいたい 40
トレーニングウェアの東大寺は、柔軟運動に余念がない。床の上で開脚したまま、直哉を見上げた。
東大寺の、自分も二年生だというとを度外視した発言はいつものことだ。未だに、留年という事実に馴れていないらしい。
ああそのことかと言うように、直哉が頷いた。その顔が浮かなく見えたのは、東大寺の気の所為だろうか。
堀田光治と佐藤裕の二人が死んだのは、事故ではないという噂が立っているようだ。
火のないところに煙は立たないとも言うし、噂にも何がしかの真実はあると東大寺は考えている。
「死んだ二人は合宿の時、勝手にうろついて騒ぎになっただろ?」
そう言えばそんなこともあった。
バスケ部は、毎年春と夏の二回、奥多摩にある合宿所で一週間ほど強化合宿を行う。
夏はインターハイ後の後進育成の重要な強化合宿だが、春のは理事長の道楽半分といったところで、部員達にも行楽気分を味わう余裕なんかもある。
奥多摩なんて妙な辺鄙な場所に合宿所があるのは、理事長の祖父が登山やら植物採集やらの趣味が高じて別荘なんかを建てた所為らしい。
合宿の三日目のことだ。
練習中、監督に天狗になっていると注意を受けた佐藤裕が、プライドをいたく傷付けられたらしく、単身合宿所を抜けて家に帰ろうとした。
お坊ちゃん育ちの甘ちゃんは、これだから困る。
それに気付いた堀田が、追いかけていって、めでたく二人仲良く迷子になったという訳だ。
「あの時、変な泉を見つけたって、ユタカ達あとで仲間に自慢してたらしい。ペットボトルに汲んできたその泉の水を飲んだ奴らが、怯えてるんだよ」
相当混乱しているのか、冷静沈着が売りの、我が星成西高校バスケ部キャプテンにしては、支離滅裂な話し方だ。
東大寺には、いまいち関連性が見えてこない。
「何で?」
ためらいながらも、直哉は東大寺の顔色を窺うようにその言葉を口に出した。
「祟りだって」
ああ、成程。
東大寺は素直に納得した。
辻褄は合っているんだろう。
人間が足を踏み入れてはいけないとされる、神聖な禁域というものがある。
言うなれば、女人禁制の高野山のような山や、見てはいけないとされる神社などに祀られている御神体といった、破ってはならない禁忌だ。
堀田光治と佐藤裕の死は、不慮の事故によるものとして処理されている。
しかし、事故に遭遇して不慮の死を遂げた時期が近い所為と、同じバスケ部員という共通点、それにプラスして合宿での死んだ二人を繋ぐ出来事。