案件4 きみにあいたい 39
「藤商の事件はオフレコなんだから、始末は自分でつけて下さいよ」
かなり前から聞いていたらしい。
(全く、人の悪い)
東大寺をと見ると、萩原に同意するようにうんうんと頷いている。
(ん? 今、俺は口に出して言ったっけ?)
藤商こと、白藤商業高校のワッペンのついたブレザー姿の少女は、東大寺からさりげなく買物袋を受け取ると、中身を検分している。
さっきまで怖い顔をしていたのが、嘘みたいだ。
「あれ、東大寺さん、バターは? 明日のパンに塗る分、ちょっとしかないですよ」
その言葉に東大寺が、素っ頓狂な声を上げる。
「あーっ、忘れとった」
「私はジャムでもいいですけど」
東大寺が、後でひとっぱしり買いに行ってくるなどと言っている。二人とも、完全に萩原の存在を忘れているようだ。
新婚夫婦か仲睦まじい恋人同士といったところか。などと、微笑ましく思っている場合ではない。が、一応尋いておきたい。
「君達って、付き合ってるんだろう?」
東大寺ははっきりと相好を崩すと、
「いやー。テレるわー。やっぱり分かる。俺らってば、ラブラブや……」
東大寺の言葉に、愛美の反駁が重なる。
「何言ってるんですか。萩原さん。そんなことある訳ないでしょう。あくまで私と東大寺さんは、仕事上のパートナーですよって、あれ、東大寺さんどうかした?」
萩原はこの東大寺君に、少しだけ同情した。
*
体育館内に、ドリブルでボールをつく音が響き渡っている。
星成西には、流石授業料の高い私立だけあって、設備の整った体育館が大中小と3つもある。
一番大きい体育館を、バスケ部が占有していた。日によって他の部と、コートを分けて使うなんて面倒はない。
コート全面の使用権があるのは、偏にバスケ部の連綿と続く栄光ある業績によるものだ。弱肉強食の掟は厳しい。
試合成績の良い順番に、体育館の使用権が割り振られており、卓球部、バレー部そしてバトミントン部と、屋内でする種目がコートとりに凌ぎを削っている。
総勢十八名の新入部員が、並んでドリブル練習しているのは圧巻だろう。まだ入部から二週間と経っていないのに、既に何人か落伍者が出ている。
二、三年生は、基本メニューの柔軟運動や筋トレ、シュート練習に余念がない。
掃除で少し遅れた東大寺だけが、一人で黙々と屈伸運動をしている。ボールを手にした直哉が、側を通ったのを幸いと、東大寺は彼を手招きした。
「何か、二年の連中がびびってるけど?」




