案件4 きみにあいたい 38
「聖蘭女子での事件以外は、俺は愛美ちゃんとコンビを組んどったから、愛美ちゃんの次に事件の真相については詳しいで。実は今もパートナーとして活動中。まだ世間には出てへんから、マル秘のネタやねんけどな」
そんな簡単に言われてしまうと、萩原の方が拍子抜けしてしまう。何の為に、今まで黙秘し続ける近藤愛美を追いかけていたのだろう。
初めからこの少年を、問い質せばよかったのだ。
萩原の考えを知ってか知らずか、少年は不敵な笑みを見せている。
「ってことは、彼女……君達が絡む事件が、現在進行形であるということかい?」
「そういうこと。わざわざ新しい事件に首つっこまんでも、オッちゃんが聞きたいのは今までの事件のことやろ。色々気になることあるんとちゃうん?」
東大寺の何もかも見透かすような視線を浴びて、萩原は俄然調子を取り戻した。確かにその通りだ。
白藤商業で現在何が起こっているのかも気になるが、好奇心を押さえて、萩原はまず第一の疑問を突きつけた。
「事件の関係者が、頑なに口を噤んでいるのはなぜなんだ。どうしてみんな黙っているんだ。事件が手に負えないことを納得しているからなのか、それとも金か」
そんな訳ないだろうと言うように、東大寺はちゃうちゃうと手を振った。
「記憶消去は俺の専売特許」
東大寺は、自慢そうに萩原に笑いかけた。あっけらかんとした態度だ。
ふと萩原の中に、近藤愛美の言っていた言葉が甦る。萩原の始末を東大寺につけさせるとか何とか。
てっきり萩原自身が消されるのかと思っていたが、現に人殺しだって請け負うと、記憶消去? まさか暗示をかける……
「君は一体、何者なんだ?」
萩原は、一体何度この問いを発したことだろう。
――記憶消去・暗示・記憶操作……超能力者?
「ピンポーン、大当……」
東大寺がその通りだというように大きく頷き、拳を握り締めたその時。
「私が駄目なら、東大寺さんから聞き出そうって訳ですか?」
東大寺は口を開きかけたまま、ありゃーという顔になる。
いつの間にか、近藤愛美がビルの壁面に背中を持たせかけてこちらを睨んでいた。
答える機会を逸した東大寺が、悪戯を見つかった子供のような顔で、頭をぽりぽりと掻いた。
気の強い部分もあるこの少女のことだ。結構東大寺という少年を尻にひいているのかも知れない。そう思っていると、東大寺が何がおかしいのかアハアハと笑い出す。