案件4 きみにあいたい 34
「お疲れ様でした」
結城直哉は、片手を上げて部員達の挨拶に応える。
一年生どもがコートで後片付けをしているのを、監督は二年に任せて一足先に教室に戻ることにする。
要となる三年が卒業し、(試合自体は夏のインターハイ以後は引退していたが、その後も時々部活には顔を出してくれていたが)四月になり、ようやく期待の一年生が入ってきた。
バスケ部にも、新入部員が大勢入った。その殆どが、中学でもバスケをやっていた連中だ。
今年の一年は、粒揃いだ。これからが成長期だろうに、平均身長が175㎝を優に越えている。相応に技量が身につけば、派手なチームになるだろう。
今の二、三年の主要メンバーはあまり身長が高くない。キャプテンである直哉自身も、182㎝と大きい方ではなかった。
しかし、身長が低いのはマイナスではない。それはジャンプ力や反射神経、足の早さでカバーできる。インターハイに出場した去年の卒業生も、身長は低かった。
星成西は、インターハイに常連というだけでなく、優勝経験もある。学校側のバックアップもあるが、期待がある分練習は厳しく練習量も多い。
このうち一体何人が残り、この強豪として通っている星成西を支えていくのだろう。
結城が入部した時は二十人はいたが、こうして三年まで残っているのは、彼と副キャプテンの阿部哲郎と東大寺遥の他、倉田と高木の五人だ。
よく残った方といえる。この中で、東大寺が唯一バスケの初心者だった。
運動神経抜群の彼を、色々な運動部が欲しがったが、東大寺には部活をやる気は更々なかった。だが同じクラスだった哲郎と直哉が、無理やり彼をバスケ部に仮入部させたのだ。
バスケをボール遊びなどと言ったその全くの初心者が、フォームも何もなっていないのに係わらず、アウトサイダーシュートを一発で決めた時の驚き。才能と呼ぶ以外ない。
バスケには興味ないと言っていた東大寺だが、今では星成西になくてはならない選手だ。
彼の性格を知る者からすれば意外だろうが、地味だが確実なプレーをする。派手なダンクやアウリープなんかを決めたがるのは、哲郎の方だ。
東大寺は試合よりも、ダッシュや柔軟などの基礎練が好きだ。黙々と身体を動かしている時、彼はとても機嫌がいい。
東大寺は、試合の時全力を出しきっていないというのが、直哉や哲郎を含めた大方の見解だった。東大寺が試合中に本気を出していれば、超高校級の選手だと騒がれている筈だろう。