案件1 そして誰かがいなくなる 16
「十二の祠は、緑ケ丘高校を囲むように配置されてるんですね?」
萩原はその問いにもYESと答えた。
神隠しが起きたから祠を作ったんじゃない。その反対だ。祠があるから神隠しが起きたんだ。
愛美はそう結論づけたが、なぜそうなのかは説明できなかった。
ただそんな気がしたのだ。
「祠の中には国宝級の宝が入っているんだ。その宝の秘密を知った者は、呪われて神隠しに合うらしい。十二の祠はただの目くらましで、十三番目の祠が重要なんだ。緑ケ丘高校のどこに祠はあるんだ」
萩原の言葉に、愛美は危うく笑い出しそうになった。
とんだ宝があったものだ。
せっかくいい線までいっているのに、所詮は一般人の想像力の限界か。しかし、的を得ている部分もある。
その宝が原因で神隠しが起こっているのは事実なのだから。
萩原の目には欲深い人間特有のギラギラした光はなく、ただ知識への飽くなき欲求だけがあった。興味津々といった顔をしている。
愛美は通学鞄からボールペンを取り出すと、萩原がくれた名刺の裏に文字を書きつけた。
それを表にしてテーブルの上に置くと、愛美はコートと鞄を持って立ち上がった。
「それじゃあ、ごちそうさまでした」
少女はペコリと頭を下げて、店を出て行った。まるで風のようだ。
萩原は、少女が置いていった名刺を、高なる期待に胸を膨らませて裏返した。
『あなたの解釈は真実から遥か遠くにあります。祠は裏庭ですが、あなたの思っている宝は、とっくに持ち出されています。間抜けな偽物の新聞記者のオジサンへ』
萩原は残っていたコーヒーがこぼれそうになる程、勢いよく立ち上がると店員の制止も聞かずに外に飛び出した。
少女の姿はもうどこにもない。
彼女が店を出てから数秒と経っていないにも関わらず、駅まで続く一本道に少女の背中はなかった。横道にでも入ったのだろうか。
店員の疑惑に満ちた、お客様どうされましたか?の声に、萩原は渋々店の中に戻った。無銭飲食などと思われてはかなわない。
テーブルにつくと、残っていた温いコーヒーを一息に飲み干した。
なぜ、新聞記者じゃないと分かったんだろう?
それよりも、オジサンというのはあまりにも失礼だ。
萩原はまだ二十七才だ。十五、六の娘からすれば、オジサン呼ばわりしても構わない年齢だと思われることは、この際無視する。