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案件4 きみにあいたい 28

 立ち枯れた木々に埋もれた建物。


 見たくない。思い出したくない。


 山の上にある斎場。

 暗い冬空が、いかにも物悲しい感じがする。建物の裏手にある焼き場から、薄曇りの空に吸い込まれていく一筋の煙。

 妹の体は焼かれて、灰になる。空へと還っていく。

 

 喪服姿の親戚達のひそひそ話を、彼は聞くともなく聞いている。

「可愛そうに。きちんと面倒みたってたら、死なんで済んだのに」

――ソノ通リヤ。チャント面倒サエミテタッタラ千尋ちひろハ、千尋ハ……

 今年の四月から中学校に上がるのを、妹はとても楽しみにしていた。セーラー服が着たいと言っていた妹は、もうこの世にはいない。

 身内だけのひっそりとした葬儀に、暫くぶりになる両親も姿を見せていた。黒い額の中の少女の無邪気な笑顔が、人々の涙を誘った。

 彼は式の間中、黙ってずっと俯いていた。

 自分の所為で妹が死んだのだと、己を責める声と懸命に戦っていただけでなく、妹の死自体が信じられなかった。

「ほんまに不幸な子やわ。あの子一人やったら、弥生さんらも、自分の子見捨てるような真似せんかったやろに」

――全部人ノ所為ニスンナ。俺ガ極悪人ナラ、オ前ラモミンナ同罪ヤ。何ノ罪モナイ千尋ヲ死ナセタ罪人ヤ。俺一人ノ所為ニシタラ、サゾカシオ前ラハ楽ヤロウナ。

 静かな怒りが彼を押し包む。

 こんな小さいのに、どうして妹は死ななければならなかったのか。もっと生きて色々なことがしたかった筈だ。

 妹の代わりに彼が死ねばよかった。そうだ。自分が死ねばよかったのだ。

 いや、自分はもう死んだも同然だ。千尋が死んでしまったのだから。いいや。千尋は死んだんじゃない。今もどこかで生きている。これは誰の葬式だろう。

 千尋は、最低な大人達に愛想を尽かしてどこかに行ってしまったのだ。

――オ前ハ何処ニ行ッテシモタンヤ。千尋。

 最愛の妹を亡くした葬儀の際ながら、彼は涙一つ流さなかった。

 そんな彼を親戚達が、陰でどんなふうに呼んでいたか、彼は当然のこととして知っていたが、気に留めることもなかった。

  *

 東大寺とうだいじは、いつになくぼんやりしていた。睡眠時間が足りない所為だ。

 今日は土曜日で、東大寺は愛美を手伝う為に白藤商業に来ていた。今のところ事件らしい事件にはなっていないが、その分愛美もてこずっているようだ。

 綾瀬の馬鹿野郎と、面と向かって罵ってやりたい。働かせ過ぎだ。

 東大寺もこの分では、また出席日数が足りなくなるかもしれない。

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