案件4 きみにあいたい 27
「俺のことやったら、幾らでも好きなように言うたらええ。でもな、千尋のことを今度そない言うたら、俺は許さへんで」
風邪をひいて寝込み、危うく肺炎を起こしかけた妹に対する祖母の言葉がそれだった。
それでも彼女は、半年間彼らの面倒を見てくれた。その祖母も、今は死んでもういない。
――千尋ハ俺が守ル。千尋ニハ俺シカオランネンカラ。
次は誰が彼らの面倒を見るのか。親戚連中は胸中、戦々恐々としていた。
隠しているつもりか、それとも隠す努力さえ惜しいのか、彼らは電話でまたは顔を合わせれば、その話ばかりしていたのを彼は耳にしている。
大阪で生まれた彼は、これまでに京都、奈良、和歌山と近畿圏内を転々とする羽目に陥っている。今度は福井の越前岬にほど近い、遠い親戚の元を訪れることになった。
親戚の所には、妹と同じ年の男の子がいた。妹は、入学が一年遅れている分、学年が一つ下で、それをネタに何度もいじめられていた。
「お前ら、親に捨てられたくせに」
彼が妹を庇えば、今度は親達からの風当りがきつくなる。
「バイト代とか言うて、その金やってどっから持ってきたか分からんで。どっかの金庫から盗んできたんちゃうんか?」
信用される、されないの以前の問題だろう。金庫破り。彼にはそれができるだろうし、もっと効率よく金をせしめることだってできる筈だ。
それでも彼は、持ち前の明るさをみせて、笑顔で答える。それが彼流の処世術だった。
「いややなぁ。おっちゃん冗談きついわ」
男も笑っているが、心に蟠る疑念など彼にはお見通しだった。微笑む彼の心に潜む憎しみなど、誰にも分からないだろう。
――悪ドイコトハセン。千尋ヲ悲シマセル訳ニハイカンカラナ。
夢の中の時間は、更に経過する。幾度も幾度も光景は変化し、現在へと近付いてくる。
彼は流れに身を任せ、再び過去の世界を生き直さなければならない。
何度も見た映画のように、その結末は知っている。一度起こった出来事が、変えられないことも承知だ。
あちこち盥回しされた揚げ句、最後に行き着いたのは、大阪に転勤してきた父方の姉夫婦の元だった。また大阪に戻った訳だ。
「あんたらが来てから、碌なことないわ」
「ばあちゃん死んだんも、あいつの所為ちゃうか。ばあちゃんに向かって、死んでまえ言うたそうやんか」
――俺ニ、ソンナ力ガアッタラ、オ前ラ全員、今頃アノ世行キジャ。




