表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/201

案件4 きみにあいたい 27

「俺のことやったら、幾らでも好きなように言うたらええ。でもな、千尋ちひろのことを今度そない言うたら、俺は許さへんで」

 風邪をひいて寝込み、危うく肺炎を起こしかけた妹に対する祖母の言葉がそれだった。

 それでも彼女は、半年間彼らの面倒を見てくれた。その祖母も、今は死んでもういない。

――千尋ハ俺が守ル。千尋ニハ俺シカオランネンカラ。

 次は誰が彼らの面倒を見るのか。親戚連中は胸中、戦々恐々としていた。

 隠しているつもりか、それとも隠す努力さえ惜しいのか、彼らは電話でまたは顔を合わせれば、その話ばかりしていたのを彼は耳にしている。

 大阪で生まれた彼は、これまでに京都、奈良、和歌山と近畿圏内を転々とする羽目に陥っている。今度は福井の越前岬にほど近い、遠い親戚の元を訪れることになった。

 親戚の所には、妹と同じ年の男の子がいた。妹は、入学が一年遅れている分、学年が一つ下で、それをネタに何度もいじめられていた。

「お前ら、親に捨てられたくせに」

 彼が妹を庇えば、今度は親達からの風当りがきつくなる。

「バイト代とか言うて、その金やってどっから持ってきたか分からんで。どっかの金庫から盗んできたんちゃうんか?」

 信用される、されないの以前の問題だろう。金庫破り。彼にはそれができるだろうし、もっと効率よく金をせしめることだってできる筈だ。

 それでも彼は、持ち前の明るさをみせて、笑顔で答える。それが彼流の処世術だった。

「いややなぁ。おっちゃん冗談きついわ」

 男も笑っているが、心に蟠る疑念など彼にはお見通しだった。微笑む彼の心に潜む憎しみなど、誰にも分からないだろう。

――悪ドイコトハセン。千尋ヲ悲シマセル訳ニハイカンカラナ。

 夢の中の時間は、更に経過する。幾度も幾度も光景は変化し、現在へと近付いてくる。

 彼は流れに身を任せ、再び過去の世界を生き直さなければならない。

 何度も見た映画のように、その結末は知っている。一度起こった出来事が、変えられないことも承知だ。

 あちこち盥回しされた揚げ句、最後に行き着いたのは、大阪に転勤してきた父方の姉夫婦の元だった。また大阪に戻った訳だ。

「あんたらが来てから、碌なことないわ」

「ばあちゃん死んだんも、あいつの所為ちゃうか。ばあちゃんに向かって、死んでまえうたそうやんか」

――俺ニ、ソンナ力ガアッタラ、オ前ラ全員、今頃アノ世行キジャ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ