案件4 きみにあいたい 22
「自分を正当化するつもりはないけど、私の関わった事件には全て犯人はいないわ。あなた達の概念や法に照らせばね。呪いや祟りや邪神の存在を、あなた達は認めることができないんだから。認めてしまえばこの社会が成り立たないもの」
(何が善で何が悪なのか。何が罪で何が正しいのか。神や鬼といった人外のモノに、人間の道理は通じない。それは闇に属するもの。しかし人は闇をおそれる一方、闇に恋焦がれる。夏の宵に自ら灯火へ飛び込む蛾のように。闇を呼び寄せる。私も闇に引き寄せられた一人…… なのだろうか)
愛美は軽く頭を振って、何も考えてはいけないと自分を戒めた。どうせ、答えなど出ない。
自分が存在する理由も、運命も。
愛美は、わざと大袈裟な身振りで、右手を閃めかせるように萩原に向けて突き出した。
「私には近付かない方がいいわよ。命は惜しいでしょう」
近藤愛美が、パントマイムの手品師のような仕草で、手を閃かせた瞬間。それは魔法と呼ぶしかない状態で出現した。
少女の手の中には、一本の匕口が握られている。無から有を生み出すとはこのことか。
抜き身の匕口が、午後の鈍い陽光を受けて妖しく光っている。恐怖が、萩原の全身を金縛りのような状態にした。
何かのトリックだと囁く声を、萩原は本能的に否定した。科学至上主義の現代社会においては、オカルティックなものは、ただのブームとしか見なされない。
オカルト番組の九割がたがヤラセだとしても、残りの10%には真実があるのではないか。またそうでなければ、実際問題、理解できないこともある。
全て科学で解明できるという思い上がりで、人間はどれだけ未知の領域を踏破したのか。
呪いや祟りや、自分の理解できない範中のことを無いものとして片付けて、認めないのだ。
なぜ? 認める訳にはいかない。この社会の仕組みがそうさせるのだ。
科学で解明できないものの存在を認めると、この世界が崩壊するからだ。偶然や推測で片付けられる事件の何と多いことか。
拉到されたのでも、本人の意思でもなく人が消えることを、神隠しと呼んで何の不都合がある?
それは、非科学的であるという理由だけにおいて、排除されるべきではない。一因として無視してはいけないのだ。固定観念に縛られた捜査方法や、科学を信奉しすぎる現代社会に警鐘を鳴らす。
それが亡き先輩の田村から、萩原が教えられたことだ。しかし、実際に目にするのでは大違いというものだ。