案件4 きみにあいたい 21
萩原は苦笑いを浮かべ、肩を竦めて見せる。自分の所為だとは考えない萩原だった。
「特ダネ追うのが記者の仕事なんでね、そんなに嫌わないでよ。僕は君が一体何者なのかすごく興味があるんだ」
「三流ゴシップ雑誌記者としては?」
痛烈なコメントが飛んでくる。
「ひどいな。確かにうちはスキャンダル専門だけどさ。僕は私利私欲を別としてだね、純粋な興味から……って、人の話聞いてないだろう」
少女はすでに、背を向けて歩き始めている。
「あなたの顔は、見たくないと言った筈よ」
さも煩わしいと言わんばかりだ。
萩原は、追いすがるようにして少女の肩口を捕まえたが、彼女の凍てついた視線に出合った途端、慌ててまたその手を引っ込めた。まるで火傷したかのような気分だった。
近藤愛美のまとうただならぬ雰囲気が、萩原にその言葉を口走らせた。
「ちょっと待ってくれ。両親と弟を殺して家に火をつけたのは君なのか?」
少女の瞳孔が、驚いたように開かれた。その瞬間、萩原は記者として培われた勘で、少女がシロだと悟り、愚問を発した自分をいたく恥じた。だがもう遅い。
どんな罵倒でも浴びる気だったが、意に反して近藤愛美は小さく笑っただけだった。
嘲笑、冷笑、そのどちらともとれたが、近藤愛美の心中は図りかねる。
表情が乏しいのは意図的か、それとも感情を表に出す術を知らないのか。
「そうよ。私の所為であの人達は死んだのよ。みんな死んだわ。私の所為で。私は殺人者よ」
(神坂瑞穂、長谷部実。私がこの手で殺した。家族も親友も、私の所為で殺された。井上厳照、右近と左近、野沢舞、竹内龍太郎、守れなかった多くの命。私の人生は六才の時に狂ってしまったのだ。あの人が孫を思いやるばかりに。しかしそれを誰が責めれよう。全ては、私のこの中途半端な力の所為だ)
近藤愛美は、広げた両の手の平を見つめている。
軽く虚空を握り締める様子は、零れ落ちた砂を惜しむようにも、流れた血の感触を確かめているようでもあった。
愛美の告白を、萩原は文字通り受け止めたらしい。その答えを半ば予期していたのではあろうが、顔色を失くしている。
多分この男には分かるまい。真実と事実の違いも。
「でも、法で裁けるような罪じゃないのは確かね」