表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/201

案件4 きみにあいたい 20

 なめくじに塩をかけると溶けるというが、溶けたら死んでしまうのではないか。いや、確か浸透圧がどうとかで……。一応これでも東大寺とうだいじは理数系だ――本当の話。

「コウ……堀田君は事故にあって病院に運ばれたんですけど、何回か意識が戻った時に、蓉子ちゃんを見かけたって何度も言ってたそうなんです」

 それだけでは伝わらないと思ったのだろう。渡辺新吾が慌てて付け加えた。

「蓉子ちゃんとこうちゃんと僕は、小さい頃は仲がよかったんです」

 東大寺は、分かったというようにポンと手を打った。

 浸透圧で思い出した。そうだ。青菜に塩だ。青菜に塩をかけると、濃度の差で水分が出てくたっとなるのだ。

 それで何の話だったけ。なめくじは、かたつむりが殻を脱いだ姿か否か、だったろうか。

 流石に不真面目だったことに東大寺は気付いて、顔を引き締めた。

「ああ。堀田は、その子を見かけて思わず車道に出てしもたんか?」

 渡辺は、東大寺の頭の中など知る筈もなく、素直にこくんと頷いた。

「でも彼女、僕らが小学校の頃に死んでるんです」

 東大寺の頭の中で、なめくじが一瞬にして蒸発した。

  *

 少女は大通りの雑踏から外れると、細い路地へと入った。ブレザーの背中で、ポニーテールの髪が軽やかに揺れている。

 見張りを始めて三日。

 萩原は、毎日規則正しく学校と家とを往復するだけの少女の生活に、そろそろ飽きていたところだった。

 じかに話を聞きたいのは山々だったが、いつかの脅しの手前もあり、いま一歩踏み込めずに少女の行動を監視するだけに留まっていた。

 近藤愛美まなみが着用している制服は、白藤商業のものだ。

 彼女は今度は藤商の生徒として、何かの事件に関わっているのだろうか。外から窺った限りでは、事件らしい事件もなく、どことなく煙臭きなくさい話も聞かれず、萩原には何も分からなかった。

 その近藤愛美は突然歩みを止めると、

「いい加減、尾行つけ回すの、止めて欲しいんですけど」

 可愛い顔からは、想像もできないような厳しい声だった。

 やはり気付いていたのだ。ずっと以前になるが、尾行をまかれたこともあった。気付いていながら今までは見逃していただけなのだろう。

 近藤愛美はくるりと振り返ると、きつい一瞥を萩原に与えて寄越した。あまりご機嫌がよろしくないらしい。

 こうなると仕方がない。覚悟を決めて、萩原は姿を少女の前に晒した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ