案件4 きみにあいたい 17
「気にすんな。出席番号15番の東大寺や。まあ、よろしうしたって」
東大寺が気のいい笑顔を見せて握手を求めようとした時、ハルカと呼ぶ声が聞こえた。彼を下の名前で呼ぶのは、バスケ部の連中だけだ。つまり他の連中には東大寺が呼ばせないということもある。
ドアの方に目をやると、しかして結城直哉と安達哲郎の二人が、二年の教室にズカズカと入り込んでくるところだった。
東大寺は笑顔で彼らを迎えた。やはり懐かしい顔触れを見ると安心する。
「おう、久しぶり。合宿以来やん」
電話をかけ合うなどという面倒なことはしない為、お互いの声を聞くのも久しぶりだ。
「何、お前らまた同じクラスなん?」
すかさず直哉がそれを否定した。
「いや、俺は3組でテツロウは4組」
中学も三年間同じクラスで、高校まで二年間を通じて一緒という、究極の腐れ縁は解消されたようだ。
本当は哲郎と書いてテツオと読むのだが、いったん間違えられて以来ずっとテツロウで通っていた。
「じゃあ、体育は一緒なんか?」
東大寺のしみじみとした口調から、二人を羨む気持ちがにじみでている。
「ったく。新学期早々、休んでるんじゃねーよ。また、出席日数足らなくなっても知らないぞ。この、留年小僧」
「ってことは、俺ら先輩なんだよな。東大寺くぅん。先輩って呼んでみぃ。ほれほれ」
直哉に続いて、哲郎までもが東大寺を煽るようなことを言い出す始末だ。
東大寺の顔を見にきたというより、からかいにきたというのが本当らしい。どうせバスケの部活でうんざりするほど顔を合わせるのだ。
東大寺はふるふると拳を震わせながら、怒鳴り声を張り上げた。一年、と言うか二年がびびってこっちを窺っている。
「アホか、お前ら。うっさいわ。今すぐ三年の教室帰れ。二度と来んな」
別に東大寺も、本気で怒っている訳ではない。留年したことをネタにからかわれても、壊れることはない友情が彼らとの間にはある。
二人もそれは十分承知で、あまり悪びれた様子はなかった。
「悪い悪い。怒るなよ、遥。お前休んでて知らないだろうけど、一年のって言うか二年になる筈だったのか……コウジの奴、死んだんだぜ」
この二人の間では直哉がリードをとるのが常となっていて、その話題を最初にふったのも直哉の方だった。
東大寺の怒りもその言葉に急速に萎む。振り上げていた手を下ろし、
「コウジって、堀田がか? 嘘。何で?」