案件4 きみにあいたい 14
まだまだ若いのだから、歳相応に着飾ればいいものを……勿体ない。無理な若作りは、女を余計に老けさせる。
親子なのだから顔の造作は似ているが、あの大人しそうな少女とはどうしても結び付かない。
緑ケ丘での失踪事件に関わったうちの一人、高橋芽久の母親だ。
事件が一応の解決を見、関係者一応全員無事という願ってもない結末ではあったが、警察の介入なく片付いた異例の出来事と言っていいだろう。
あんなに大がかりな事件であったにも関わらずだ。
事前に調査を進めていた萩原は、高橋芽久の母親にも事件が大団円を迎える前に取材で会っている。その時の意味深な台詞は、後になって重大な意味を持ってきた。
名刺入れに埋没していた彼女の連絡先を掘り出して、早速アポイントを取った。高橋寛子だったか寛美だったか。どちらでも構わない。
「どうしても、お嬢さんが巻き込まれた事件について聞きたいことがあって」
事件の部分を、萩原は殊更に強調してみせた。訪問の理由が、ただの口実ではないことを釘を刺しておく必要がある。
「もう半年近く経つのに?」
案の定、女は定石通りの台詞を吐いた。眉でも顰めて、さも煩わしいと言わんばかりに吐き捨ててくれれば、まだ可愛いげがあるものを。
被害者やその家族にとって事件は、早く忘れてしまいたい忌まわしいもの以外のなにものでもない。
特に、事件で犠牲になった場合はそうだ。
徹底的に事件の闇に立ち向かう者、マスコミはおろか警察の捜査も拒否して、そっとしておいて欲しいと願う者。遺族によってもそれぞれだ。
あれから半年。
半年は長いということはない。時効を前にした数々の未解決事件とは、位置付けは違う。実質的に事件は解決しているのだから。しかし、多くの謎を抱えたままであることは、誰にも否定できないだろう。
女のしなを作ったような視線は無視して、萩原は自分の質問をきりだした。
「SGAという会社の名前に、聞き覚えがありますよね?」
「SGA」
女は口の中で、その名前を繰り返した。
「セントガーディアンズアソシエーションです」
女の顔色には何の変化も見られない。萩原は重ねて聞いた。
「事業主である綾瀬という男を、知っていますね?」
女はふっと表情を崩すと、おかしそうに萩原を見た。
「まるで誘導尋問ね。綾瀬ですか。さあ、存じませんけど」
女の反応は意外でもなんでもなかったが、萩原は深い溜め息を吐いた。
疲労感までは、隠しようがない。