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案件4 きみにあいたい 13

 もう一度二年生をやり直す羽目になったのだが、仕事が片付かず始業式を含めて、のっけから休んでしまったのはまずいだろう。

 今年は少し仕事を減らして、出席日数ぐらい満たしておかなければと思う。

 今日は部活の朝練は休んだので、普段乗らない遅い時間の電車になった。今まで学校に来ていないのに部活だけ出ては、教師の目につくだろう。一応、配慮しているのだ。

 階段の下にあらかた通勤者の姿が消え、人影が少し疎らになる。

 のんびりしている場合ではないと、東大寺とうだいじは階段を駆け降り始めたが、その時ふと眼下の構内を横ぎっていく人影に注意が削がれた。

 小学校の高学年ぐらいの女の子だ。思わず東大寺の目が、吸い寄せられる。

 ピンクのランドセルが、背中で揺れている。耳の下で切り揃えられたショートボブの、まるで東大寺の視線に気付いたかのように、その女の子はほんの少し振り向いた。

「ち……!」

 思わず東大寺は手を伸ばして、同時に足も踏み出していた。

 スニーカーの靴底が、階段の縁を滑る。体勢を崩したその時、誰かに背中を強く押された――ような気がした。

 視界がガクンと落ちる。

 しかし、腐っても鯛。スポーツマンと自他ともに認められているだけある。

 東大寺は、こんな場合にも関わらず将棋倒しになることを避けて、人のいない空間に身を躍らせた。一気に七、八段飛び降り踊り場で着地すると、膝を着いた状態で、後から落ちてきた鞄を拾い上げる。

 数人のサラリーマンが東大寺を囲み、心配そうながら揉め事は御免だと言った顔で覗き込んできた。

「大丈夫か、君。怪我は……あっ、おい!?」

 東大寺は頷くのももどかしげに、少女が歩いていったと思われる方向に駆け出した。

「今のは……」

 ランドセルを背負った小学生の姿は、もうどこにも見えなかった。

  *

 F商事のビルは、丸の内のオフィス街にあった。指定されたティールームで、萩原は女が現れるのを待っていた。

 目の前に置かれたコーヒーカップには、一口か二口、唇をつけただけだ。

 萩原は、自分がかなり険しい顔をしていることに気付いていなかった。

 近付いてきた女が、片手を上げて合図を送ってきた。派手なスーツに身を包んだ女に、萩原は黙礼を返す。女はウェイターにコーヒーを頼んだ後、萩原の顔に視線を固定した。

「週刊Nの萩原さんとか、仰いましたよね」

 見た目の歳の頃は、三十代の半ばといったところだ。高校生の娘がいるようには、とうてい見えない。いい意味でも、悪い意味でもだ。

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