案件4 きみにあいたい 12
「竹内か、それとも長谷部の霊でも憑いてるんちゃうんやろな。俺はお化けなんか怖くないけど、祟りとか呪いは俺の守備範囲外やで。 愛美ちゃんに言いたいことでもあるんやったら、本人の前に出たってや。俺は関係ないねんから」
側に紫苑や愛美といった特殊な人間がいる分、東大寺はお化けや幽霊、悪魔や、鬼といった存在に違和感は覚えない。
紫苑は魔導師で(魔法使いの一種だろうか、東大寺にはあまりよく分からない)愛美は、陰陽師らしい。
厳密に言うと陰陽師でもないのだが、特殊な能力があることは言うまでもなかった。
それこそ、東大寺など超能力者という異能力者ではある。自分に見えないからと言って、存在しないとは一概に言えないだろう。
東大寺も流石に宇宙人がいるとは思わなかったが、オカルティックなものに拒否反応はない。
愛美や紫苑も、幽霊にはお目にかかったことはないようだ。しかし、あまり会いたいモノではないだろう。
SGAに関わって以来、嫌というほど人の死に際&死体を見ている。
東大寺は間接的に人を殺したことはあっても、今のところ直接手を下したことはなかった。
そんなこと自慢にもならないのは、百も承知だ。しかし、彼を恨んで死んだ人間は十指を越えて余りあるだろう。
そんな人間が化けて出てきたら……それはとても怖いかも知れない。
生きている人間なら対処のしようがあるが、それがいったん死んだ人間となると、対応に困る。
一度お祓いでもしてもらおうか――誰に? 愛美や紫苑にできるのか?
この時はまだこの先何が起こるかも知らずに、東大寺は呑気に構えていたのだった。
「どうせ出てくるんやったら……。そんなこと言うても、しゃーないな」
いつの間にか、視線を感じなくなった。
東大寺は立ち上がると、掃除の続きを始めた。
カメが小さく欠伸を洩らして、甲羅の中に手足を引っ込める。まるで私は何も知りませんよと言っているかのようだった。
*
人波に押し流されるようにして、東大寺は電車からホームへと降り立った。
溢れた人々は階段へと、餌に群がる蟻の群れのように急いでいく。東大寺と同じ学ラン姿の高校生達も何人かその中に見かけた。真新しい制服の、星成西高校の新入生の姿もあった。
東大寺も、この学ランとはあと二年は付き合わなければならない。まともに入学して、留年などという面倒なことにならなければ、本当なら東大寺はもうこの三月で卒業していた筈なのだ。