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案件4 きみにあいたい 11

 六畳二間にバス、トイレ、キッチン付きのアパート。

 高校生の独り暮らしには、贅沢だろう。駅まで徒歩約三分。

 大きな通りに面していて夜間の交通量も多いが、幸い寝付きのいい東大寺とうだいじには関係ないことだった。

 最高の物件だが、築三十年以上と少し古く、大家の手入れも良くない。その薄汚れた壁や、染みの浮いた天井も東大寺は気に入っている。

 去年の夏から住んでいるが、アパートを見つけたのも、手続きも敷金を出したのも、全部東大寺一人でやった。

 綾瀬アホオヤジの世話には、なりたくなかった。

 結構マメに掃除をしているので、汚いということはないが、やはり男の一人住まい。雑然とした感じがする。テーブルの下に、少年漫画誌の先週号が転がっていたりして。

 それが東大寺の城だ。

 数日間留守にしていた為、何となく部屋は埃っぽく湿った感じがする。開いた窓から入り込んでくる外気はまだ冷たい。

 東大寺は鼻歌を歌いながら、掃除機を掛けていた手を止めた。スイッチが切れた掃除機は、小さく唸って沈黙する。

「またや」

 どこからか、誰かの視線を感じた。

 春休みに多摩方面に、バスケの合宿に行って以来だ。

 誰かに見られているような気がする。誰もいないことは分かりきっていたが、東大寺は振り返って見ずにはいられなかった。

 部屋を見回すと、CDラックの上に置いた水槽の中で、ゼニガメがボーッとこっちを見ていた。

 相変わらずどこを見ているのか、ゼニガメは定まらない目付きをしているが、何となく東大寺は目があったような気がした。

 彼にはウェルズという立派な名前が付いていたが、呼び辛いのと因縁を感じる為コロと呼んでいる。

 カメにコロはないだろうと、愛美まなみにはおおいに受けたが、その他のSGAのメンバーの反応は言わずもがなだった。

 ともえと長門には完全に無視され、紫苑しおんにはお愛想笑いを浮かべられ、あのクソ親父には鼻であしらわれ……。

 東大寺は、思い出していて何だか悲しくなってしまった。


 コロという名前のどこが悪い。


 東大寺は、どこまでも遠くに脱線してしまった思考をとりあえず元に戻した。時々不意に、誰かの視線を

感じるような気がするのだ。

 東大寺は馬鹿らしいとは思いつつも、コロの水槽の前に座り込んで話しかける。

 仕事で四日間家を空けていたが、コロは東大寺の顔を見ても喜ぶ様子もなく、飼い主と認識しているかも怪しかった。

 紫苑に餌を頼んでおいたので、飢え死にすることはないが、流石に水槽の掃除まではしてくれていない。

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