案件1 そして誰かがいなくなる 14
それも束の間のことで、我が意を得たりとでも言いたげな得意そうな顔をする。
愛美はしまったと思うが、もう遅い。
「祠って言葉でそんなに反応してくれたのは、ほんの数人だよ。しかも君、祠についてかなり詳しく何か知ってるだろう。緑ケ丘では神隠しが頻繁に起こっているらしいし、色々聞かせてもらわなくちゃ。ここじゃ、何だから喫茶店にでも。勿論俺が奢るから」
本当にこの男、新聞記者なのだろうか。
悪い人間ではなさそうだが、緑ケ丘高校での事件を失踪と言わずに神隠しと言うなど、愛美達の知らない情報を握っているのかも知れない。
男は逃がさないぞというように愛美の腕を掴んで、目の前に見えている喫茶店に連れ込もうとする。
愛美は諦めて、男の好きなようにさせておいた。
愛美は喫茶店の、喫煙席の二人掛けのテーブルに男と向かい合う形で座った。
ウエイトレスがミルクティーとアップルパイとアメリカンコーヒーを、愛美と男の前に置いて立ち去ると、男はシャツの胸ポケットからおもむろに名刺を取り出した。
喫茶店はモダンな雰囲気で、ジャズが低く流れている。学校の通学路にあるにしては、若い子向けではない。客は愛美とその男と、五十代ぐらいの夫婦らしい二人連れがいるだけだった。
名刺には社名が刷られていなく、萩原武史という名と、携帯電話らしい番号が入っているだけだ。
愛美が男の素姓に疑問を深めていることも知らずに、煙草を取り出した。コートの下はトレーナとダンガリーシャツでズボンはチノパンだった。
まっとうな勤め人には到底見えない。
「私が話をする前に、あなたがどこまで知っているのか教えて下さい。そうしたら話が重ならないでしょう」
萩原は、目の前のティースプーンでくるくると紅茶を掻き回している少女が、なかなか頭がいいらしいことに気が付いた。
細く華奢な指。家事などしたこともないのだろうと思う。
奇麗な弧を描く黒い眉。細い鼻筋の通った鼻梁。唇は朱をさしたように赤いが、口紅を塗っている訳ではなさそうだ。
萩原には付き合っている恋人もいたし、ロリコンでもなかったが、目の前の少女には魅力を感じた。
「君の名前は教えてくれないの?」
ちょっと未練がましい&下心ありそうな萩原の言葉に、少女はすげなく必要ないと答えた。
高校生ということは15~18才なのだろうが、制服を着ていなければもっと大人っぽく見えそうだ。老けているというより、大人びている。