案件4 きみにあいたい 7
話を聞く願ってもないチャンスだ。
そこで、世話になった先輩――実は去年の十一月に亡くなったのだが――の知り合いを頼ることにした。本当はあまり顔を出せる場所ではなかったが、そこは事件への興味と記者としての厚かましさが勝った。
デスクで資料整理や記事を書いている時以外は、萩原も外を飛び回っているように、記者なんて人種は捕まらないことが往々にしてある。
加納。それが先輩の知り合いである事件記者の名前だ。彼が、その時間本社に詰めていることを電話で確認して、そして今に至る訳だ。
前置きが長くなってしまったが、加納の言葉に話を戻そう。
「この子が関わる事件で、おかしくないものなんて、ありませんよ。それで加納さん。一体どんな問題があったんですか。記事で見る限りでは、そこら中に転がっているような疑問を挟む余地もない、ありきたりの事件として扱われてますけど」
警察のマスコミ対策か、それともどこからか圧力がかかったか。事件が握り潰され、被害者が泣き寝入りするケースだって多々ある。
お上が駄目なら、だからこそ真実を明るみに出す為に、記者は日夜奔走するのだ。
加納は目を細めて、何かを思い出すような顔付きになった。その時のことを思い出しているのだろう。
「まず出火場所が玄関だということ。問題はここからだ。一家四人が焼死したことになっているが、発見された遺体は三つだった。これは間違いない。死体の身体付きから死んだのは、両親と長男だと確認された。まだある。ただの焼死ではなく、父親が頭部の破損と左腕の欠損。長男は首を切断されている。この二人は居間だった場所で発見され、母親だけは玄関で見つかった。腹部に損傷があった。致命傷だろう」
加納の言葉を聞くうちに、萩原の顔が見る見る変わっていった。
普通に加納の話を聞いていると、強盗・怨恨による殺人・放火事件というシナリオが出来上がる。
動機や犯人像までは推測不可能だが、それがどうして煙草の不始末による出火、一家全員焼死で片付けられたのか。
片付けられねばならなかったのか。
萩原は、慌てて手元の電子版の数日分を目捜ししたが、この火事の記事については、続報や関連記事どころか後日訂正すらなかった。
事件は完全に終わっているのだ。
「ちょっと待ってくださいよ。焼け死んだんじゃなくつまり殺されて、放火されたってことですか。それは立派な殺人・放火事件じゃありませんか!」
誰が。どうして。なぜ。
事件に出会う度、萩原はこの問いにぶつかることになる。